私は常々、その職掌の領域をもっと広げていきたいと思っていたのです。というのも、労基法などの法律を守るだけでは、その職場の抱える根本的なトラブルはなくならないケースを数多く見てきたから。たしかに一時的には問題を解決できますが、経営体質が変化しなければ、同じような問題を二度と起こさせない、根本改革には至りません。

 そこで代表に就任した私は、労務トラブルを未然に防ぐために、社労士がもっと企業の根本改革に貢献できないかを模索し始めました。

 実は私がそうした思いを強めたのは、20年前に担当したある企業のリストラのケースを経験したからです。

 当時担当していたある企業は、業績不振のため、大量のリストラを余儀なくされていました。そして社員向けの説明会を行うことになり、女性の人事部長から、専門的な質問に返答する要員として、私も立ち会うよう依頼されたのです。

 いざ説明会が始まると、参加した社員からは雨あられのような罵詈雑言が、女性部長に対して浴びせられました。部長は、粛々と説明を済ませて説明会は終了しました。

 そして後日、リストラ希望者たちのリストが私のもとに届き始め、その中にその女性部長の名前を見つけたのです。

 部長がいつ退職を決意したのかはわかりません。しかし、その胸中が無念の思いで一杯であることは想像に難くありませんでした。

社会保険労務士が行った
社員に合わせた働き方改革とは?

 この体験から、リストラ勧告や労務トラブルが起こってしまうよりもっと早い段階で、私たち社労士が企業に対してできる働きかけが何かあるのではないか、ということを考えるようになったのです。

 こうして社労士の職掌を広げたことで、勤務する社労士にとっては、これまでにない新たな知識やスキルの習得が必要になりました。