古いシステムのメリットを過度に強調
根拠もない幻想で悪影響

 もうひとつイノベーションをつぶす典型的な手法が、「(2)古いシステムのメリットを過度に強調する」というものだ。

 今回の「さんぽセル」の場合、それは「ランドセルによって足腰が鍛えられる」というものだ。

 ただ、これは科学的にはなんの根拠もない。むしろ、悪影響を及ぼしているという専門家の方が多い。例えば、アメリカではこんなことがいわれる。

<米小児学会は「バックパックの重さは体重10〜20%を決して超えないこと」としています。文部科学省の統計によると、小学1年生の平均体重は約21キロ。米小児学会の基準では、2〜4キロを超えない重さが望ましいということになります>(朝日新聞2018年3月26日)

 しかし、日本の小学生はアメリカの医学界が「決して超えないこと」と警告する重さを軽々と超えている。

 ランドセルメーカーのセイバンが調査をしたところ、「1週間のうち、ランドセルが最も重い日の荷物の重量は、平均で約4.7キロ。ランドセルの重さも含めると平均約6キロのランドセルを背負って登校している」(18年6月6日プレスリリース)ことがわかった

 アメリカ人の感覚ではありえない「重り」を背負って、日本の子どもたちは炎天下の中で「行軍」をするように黙々と学校を目指して歩いている。見ようによっては立派な「虐待」だ。

 これがいかに理不尽なことなのかというのは、開発した小学生たちへの「体を鍛えろ」という批判に対する反論がすべて物語っている

<灯油缶を、いまも毎日背負っている大人が言うなら許します。もし灯油缶を遠くに運ぶなら、大人はみんな軟弱にならないように背負いますか?きっとタイヤで運ぶと思います。同じです!>(ITmediaビジネスオンライン5月30日)