社会課題をちゃぶ台返し
「とにかくつぶしたい」タイプの大人

 ただ、こういうイノベーションのつぶし方はまだマシで、つぶされる側としてもっとも厄介なのが、「(3)社会課題をちゃぶ台返しする」というものだ。

 つまり、意図的なのか単なる無知なのか、そもそも大前提となっている事実を否定して、イノベーションそのものの価値をおとしめるのだ。

 今回の「さんぽセル」の場合、それは、「成長期の子どもがキャリーを引いて歩いたら体のバランスが悪くなって背骨がゆがむ」というような指摘だ。

 これはかなり破天荒な批判である。先ほど触れたように、医学界では子どもに重い荷物を背負わせることは発育に悪いし、猫背にもなって、足腰の負担になるというのが一般的だ。また、近年は肩の痛みや腰痛が慢性的になって、登校自体を嫌がり、子どもの精神的にも悪影響を及ぼす「ランドセル症候群」という健康被害があることもわかってきた。

 しかし、そういう話を知ってか知らずか、すべて「黙殺」しているのだ。さらに、「肩の負担は減るが今度は手首が悪くなるのでは」「出張でよくキャリーケースを使いますが腱鞘炎になりました。子どもにはもっと深刻な事態を招くのでは」なんて感じで、「ランドセル症候群」の問題などこの世に存在しないかのように、まったく別の問題を設定する人もいる。

 これらの批判は、大前提としていることがかみ合っていないので、建設的な話し合いができないのだ。

 とにもかくにも、つぶしたい。新しい取り組みなど認められない。そんな結論ありきで、「ちゃぶ台返し」をしているようにしか見えない。

 このような形で、日本社会にはイノベーションの芽をつぶそうという人たちがいる。この現実がニュースによって、世の中に広く伝わったということは、ある意味では喜ばしいことかもしれない。

 これから日本の未来を担う子どたちに、「そうか、何か新しいことをやろうとすると、大人ってこういうことを言ってつぶしにくるんだな」ということを学ぶことができたからだ。

「体罰」や「シゴキ」がわかりやすいが、日本社会は、「オレたちガマンしてきたんだから、お前たちも同じようにガマンしろよ」という感じで、自分が受けたハラスメントを次世代に忠実に再現していく傾向が強い。

 この「ハラスメントの再生産」こそが、イノベーションを阻んでいる一要因だと個人的には考えている。

「さんぽセル」を開発した小学生もそうだが、全国の子どもたちはぜひ、今回の「さんぽセル」をこきおろした大人たちのことを忘れず、教訓にしていただきたい。

 これから君たちが新しいことを始めようとする時、大人たちはそれっぽい理屈を並べて必ず邪魔をしてくるだろう。でも、そのほとんどは否定したいだけだ。自分たちができなかったので、同じ目に合わせたいだけだ。嫉妬と言ってもいい。なので、ワケのわからない批判に屈することなく、社会のためになると確信したイノベーションを実現してほしい。

(ノンフィクションライター 窪田順生)