東京都心のオアシス、明治神宮外苑。その再開発計画が今、暗礁に乗り上げている。都民に長年憩いの場を提供してきた少なくない木々を犠牲に、スポーツ施設の刷新のみならず、超高層ビル建設計画が進んでいることが浮上したからだ。都民不在でひそかに進められてきた神宮外苑再開発の裏側に迫る、短期集中連載『都心開発、最後のフロンティア 明治神宮外苑再開発のウラ側』(全3回)の#1では、都心超一等地の再開発を巡る大物政治家たちの暗躍を描く。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)
明治天皇をしのぶ庭園に
超高層ビルが出現!?
東京の超一等地、新宿区と港区にまたがる広大な敷地に、イチョウ並木をシンボルとする樹木が生い茂る、明治神宮外苑(以下、神宮外苑)。
この洋風庭園は、明治天皇、昭憲皇太后をしのび、その治世に思いを致す全国民からの献金と献木によって1926年に完成した。そんな都心のオアシスとしての役割のみならず、明治神宮野球場(神宮球場)や国立競技場、秩父宮ラグビー場などが集積するスポーツの一大聖地となっている。
今、この神宮外苑を巡る再開発計画が世間の注目を集めている。
東京都都市計画審議会は今年2月、神宮外苑の地区計画の変更を決定。神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えた上で建て直し、その隣接地に三井不動産や伊藤忠商事が超高層ビルを建てる、という再開発計画にゴーサインを出した。
だが、その工事の過程で、樹木約1000本が伐採されることが発覚(日本イコモス調べ)。地域住民や専門家から計画の見直しを求める声が巻き起こり、現在は「計画が事実上の暗礁に乗り上げてしまった」(神宮外苑再開発の関連企業関係者)。
なぜ、このような計画が立案され、進行してきたのか?背後から浮かび上がるのは、神宮外苑の敷地を所有する宗教法人、明治神宮や行政、大企業、そして大物政治家たちの思惑と利害の一致だ。
「佐藤さん、素晴らしい案じゃないか!長生きしないと――」
時計の針をちょうど10年前、2012年5月15日の午後1時半に巻き戻す。
オリンピック・パラリンピックの20年大会の開催都市を目指していた東京都の佐藤広副知事と安井順一技監(肩書はいずれも当時)は、神宮外苑の未来図を描いた“極秘計画”を手土産に、衆議院第二議員会館の大物政治家の事務所を訪ねた。
佐藤副知事らの手土産に目を輝かせ、自らの長生きを決意した政治家とは、日本ラグビー協会会長でもあった森喜朗元首相、その人だ。
次ページでは、森元首相と都幹部が交わした“密談”の中身と共に、現在の混乱を生んだ再開発計画が、水面下でいかに描かれてきたのかを詳らかにしよう。