停止位置からずれても
双方のドアを開くことに

 さて、対策のもう一つの柱が停止位置とホームドアの問題だ。

 今回の訓練では車両のドアとホームドアがずれた場合の対応を検証するため、実際に新横浜で停車位置を変えて停車した。駅では指令所からの指示で全てのホームドアを開扉して到着を待っていたため、停止後すぐに車両のドアが開いた。一部のドアはホームドアの収納部に完全に被さる形となったが、ホームドアの開口部から線路側に設置された高さ60センチほどの障害物検知センサーを乗り越えて降車した。

 鉄道事業者としては、ただでさえ混乱している中でつまずいたり、足を踏み外したりしてさらなる負傷者が発生することを防ぎたい。そのため所定の停車位置からずれて停止した場合は、「より安全」を期して、停止位置を修正した後に車両のドアおよびホームドアを開扉していた。

 しかし京王線事件で見たように、車両のドアが開かなければ避難が遅れ、さらに窓から脱出しようとして混乱が生じる事態も懸念される。そこで、また別の違う視点の「より安全」を確保するため、車内で緊急事態が発生している列車では、停止位置からずれて停止した場合でも速やかに車両のドアおよびホームドアの双方を開扉することになった。

 再現可能で対策を立てられる多くの事故とは異なり、誰がどのような手口で犯行に及ぶか分からない事件への対策は難しい。ましてや1000人を超える不特定多数の人間が乗り込む鉄道ではなおさらだ。どうしても対症療法になりがちだが、教訓を踏まえてハード・ソフトをアップデートし続けていくしかないのだろう。