小林:第四の消費の変質という話で言うと、ダイソーが「スタンダードプロダクツ」という新しいブランドを始めたんです。低価格帯だけどマット釉のかかったような、ぱっと見、かつての暮らし系雑誌に載っていそうな感じの、写真映えしそうな器とか、白樺の皮かと思いきや実はポリプロピレンで編まれたような、なんちゃって北欧ふうのバスケットとか。ウェブサイトを見ると、我々は地球環境に配慮して展開していますよっていうムードを醸し出していて。それで、批判するからには実際に見なくちゃと思って店舗に行ったら、「こんな感じでしょ」と言わんばかりの記号化、スタイル化がすさまじくて、まさに「ファストていねいな暮らし」だと思いました。

三浦:ファストていねいな暮らし(笑)。“第四の消費ふう”ということですね。そう考えると、いま、無印がすべきことは、たとえば、拾ってきたもので自分の暮らしをつくろうみたいな、そういう行為を提案することなんじゃないかな? そうなると「どこでもうけるんだ?」という話になるけど、思想としてはそういうことを提案すべきだと思う。それこそが禅的でもあるし。

永続孤独社会 分断か、つながりか?『永続孤独社会――分断か、つながりか?』
三浦 展 著
定価1012円
(朝日新書)

河尻:「サステナブル」はいまグローバルカルチャーの本丸ですけどね。カンヌ国際クリエイティビティフェスティバルのような場では、この10年来の変化の中で、いまやSDGs、あるいはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の視点を欠いたブランドやキャンペーンは基本相手にされなくなりました。ある種の社会貢献性とビジネスの成長を両立させる方法があるはずだということで、提唱されたのが「パーパス(社会的存在意義)」という理念です。ただ、この理念もなぜか日本に入ってくると“パーパスふう”になりがちです。それっぽいことでお茶を濁すというか……。

 実際、周囲を見渡すと「なんちゃってSDGs」「とりあえずパーパス」とでも言うべきキャンペーンも目につき始めています。これはもったいない話です。パーパスの設定はリスクも伴いますが、成し遂げた会社は次の時代をつくると考えれば。私は「本質・本気・本音」と意訳していますが、広告にもオーセンティシティ(真正性)が求められる時代です。

小林:今日、僕のはいているパンツは「MITTAN」という衣服のブランドのもので、ここの特徴としては、自社製品は全部、実費でリペアしてくれるんですよ。靴下1枚から。ブランド側としては靴下まで直すというのは、ある種の決意表明だと思うんですよね。

河尻:本気のサステナブルですよね。

●三浦 展(みうら・あつし)
1958年生まれ。社会デザイン研究者。1982年一橋大学社会学部卒業。株式会社パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。著書に『大下流国家』(光文社新書)、『都心集中の真実』(ちくま新書)など
●小林和人(こばやし・かずと)
1975年生まれ。海外と郊外で育つ。1999年に吉祥寺の古いキャバレー跡のビルで国内外の生活用品を扱う「Roundabout」を友人数名で始める。2008年、物がもたらす作用に着目した品ぞろえを展開する「OUTBOUND」を開始。建物の取り壊しに伴い、2016年にRoundaboutを代々木上原に移転。2021年には「LOST AND FOUND」(ニッコー株式会社)の商品選定を担当。著書に『あたらしい日用品』(マイナビ)、『「生活工芸」の時代』(共著、新潮社)がある
●河尻亨一(かわじり・こういち)
1974年生まれ。取材・執筆からイベント、企業コンテンツの企画制作ほか、広告とジャーナリズムをつなぐ活動を行う。カンヌライオンズを取材するなど、海外の最新動向にも詳しい。訳書に『CREATIVE SUPERPOWERS』(左右社)がある。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』(朝日新聞出版)で第75回毎日出版文化賞受賞(文学・芸術部門)

AERA dot.より転載