ミレニアル世代の中の“デュアルキャリアカップル”

 調査研究報告書の第2章は「マミートラックの実態とマミートラックから脱出する要因」。“マミートラック”が、子どものいる女性のキャリア形成にとって重要な鍵を握っていることがこのタイトルからも分かる。章の「はじめに」には、こう記されている。

「近年、出産後の女性の就業継続が進み、職場で十分に能力を発揮して活躍することが求められるようになってきている中で、就業継続はできても、出産や育児を機にキャリアが停滞し、思うように活躍できない、いわゆるマミートラックの問題が強く認識されるようになってきた。そのため、どのような状況が要因となってこのマミートラックの問題が発生するのか、そこから脱出するにはどのような方策があるのかを明らかにする必要がある」

 今回の調査結果では、「マミートラック」に該当する女性の割合は、女性全体で46.6%、総合職でも39.0%という高い数字になっている。

山谷 マミートラックから抜け出した方を見ると、自分から上司に要望を伝えた方もいれば、上司から「この仕事をちょっとやってみない?」という働きかけのあった方もいます。子育ては予想外のことも起こるので、「『やります!』と言ったのにできなかったらどうしよう」「他の人に迷惑がかかるのでは?」と思いがちです。仕事のサポート体制や環境が整っていなければ、女性は上司に要望を伝えづらいでしょう。マミートラックを抜け出したい女性をどうするかは職場全体の課題であり、その意欲を持つ人に対して上司が背中を押してあげることが大切で、当然、パートナーである夫との意思の疎通も重要です。マミートラックを抜けた女性の中には、「夫に働きかけて、自分の家事分担を減らした」という方もいらっしゃいました。たとえば、インタビュー調査では、上司から「(出張のある仕事を)やってみない?」と言われ、「育児を夫に任せられる状況だったので『やります』と答えた」という声がありました。夫の育児参加が難しいと、上司に背中を押されても、「できる」という決心になかなか至りません。育児を外部サービスに頼むケース*8 もありますが、そうした方はまだ少数派のようです。

*8 「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」のWEBアンケート調査におけるQ42=「『マミートラック』を脱出できた理由」で、「外部サービスにより自分の家事・育児の負担を減らした」という回答は2.9%。

 21世紀職業財団では、「ただ働くだけでなく、それぞれがキャリアを自律的に考えて形成し、仕事においても家庭においても充実した生活を実現する夫婦」を「デュアルキャリアカップル」と定義し、今回の調査結果を踏まえて、デュアルキャリアカップルを目指す夫婦への提言を行っている。男女それぞれのキャリア志向の高低に左右されるだろうが、ミレニアル世代でデュアルキャリアカップルを目指す夫婦は増えているのだろうか?

山谷 当調査の結果では、「デュアルキャリアカップル」を目指している夫婦は、女性では全体の3割くらいです。「自分のキャリアよりも配偶者である夫のキャリアを優先していく」と考えている女性のほうが多い状況ですが、私たちは、仕方なくそう考えている人も多いと見ています。というのは、「デュアルキャリアカップルを志向しやすい環境」を探ると、たとえば、上司が少し高い目標を与えている女性では、「お互いのキャリアアップを目指していく」という回答が50%近い数字なのです。つまり、環境が整っていれば、キャリアアップを目指していきたい女性は多いはず。しかし、現在はそういう状況ではないので、“配偶者のキャリア優先”になっていると読み取れます。

 男女雇用均等法の第1回改正(1999年)以降に就職しているミレニアル世代は、デュアルキャリアカップルへの志向が上の世代に較べて高いと考えられる。当調査を通じて見えるミレニアル世代の特徴を、改めて山谷さんに聞いた。

中村 今回の調査対象は、ミレニアル世代の中で、夫も妻も正社員の方々です。ですから、同じミレニアル世代の中でも、調査に表れた数字は男女平等意識が高い傾向にあります。たとえば、「子どもが生まれる前の夫婦の役割について」の考えは、男性の67.5%の人が「妻も夫も同じように行うべき」と答えていますが*9 、これは国が行った同様の調査結果*10 よりも高い数字になっています。夫婦の目指したいキャリアについても、男性の回答では「お互いのキャリアアップを目指していく」が4割を占めます。これは、リップサービスもあるかもしれませんが、それでも4割いらっしゃるという事実は、多分、ミレニアル世代よりも上の世代*11 ではあり得ないのではないか、と。ミレニアル世代の男性の家族観や就労観は、他の世代とは異なる特徴があると思います。

*9 「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」のWEBアンケート調査におけるQ19より。女性による「妻も夫も同じように行うべき」の回答は61.5%。
*10 内閣府「少子化社会に関する国際意識調査」
*11 新人類世代・バブル世代・団塊ジュニア世代など。