女性活躍やダイバーシティマネジメント、仕事と生活の両立推進など……雇用環境の整備から経済社会発展への寄与を目的とする公益財団法人21世紀職業財団が、「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」を今春に発表した。ミレニアル世代は、現在27~41歳(1980~1995年生まれ)の年齢層で、男女雇用均等法の第1回改正*1 (1999年施行)後に就職した、法規上における“男女平等”で働き始めた世代だ。調査研究から見えた、 子どものいるミレニアル世代などの動向について、同財団の山谷真名さん(上席主任・主任研究員)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
*1 それまでの「努力義務規定」が改められ、募集・採用、配置・昇進について、女性であることを理由とする差別的取り扱いが禁止されることとなった。また、教育訓練について、差別が禁止される対象範囲の限定が廃止されたことにより、募集・採用から定年・退職に至る雇用管理において、事業主が女性に対して差別することが禁止されることになった。(厚生労働省「男女雇用機会均等法の変遷」より)
マミートラックとアンコンシャスバイアスの存在
公益財団法人21世紀職業財団*2 の「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」*3 は、WEBアンケート調査とインタビュー調査の回答をもとにまとめられたもので、その報告書は300ページにもおよぶ。就労に関する“ミレニアル世代の現在形”をさまざまな数字や声からうかがい知ることができるが、その中で、山谷さんが意外に思ったこと、特に印象に残ったことは何か?
*2 公益財団法人21世紀職業財団(東京都文京区本郷 会長:伊岐典子) 財団の理念は、「あらゆる人がその能力を十分に発揮しながら、健やかに働ける環境を実現する」。
*3 子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究 【インタビュー調査】<対象>26~40歳、総合職・基幹職の夫婦33組と女性1名の計67名 そのうち、子どもがいる夫婦31組、女性1名 <調査期間>2020年8月~10月 【WEBアンケート調査】<対象>男女 本人・配偶者とも、 26歳~40歳、従業員31人以上の企業に勤めている正社員・正職員 同居している子どもがいる人(子どもの年齢問わず)現在の勤務先に3年以上勤めている人 学歴:高卒以上 職種:すべての業種、すべての職種、エリア:全国、育休中も含む 分析した対象者は、男性 1912名、女性 2194名 計4106名 <調査期間>2021年6月25日~28日
山谷 まずひとつ、「一皮むける」仕事経験の男女差がミレニアル世代でも大きかったことです。私たちは、2019年に50代・60代の女性正社員を対象にした調査*4 も行ったのですが、そこでは、 “女性の異動経験の少なさ”が明らかになりました。ミレニアル世代も同様で、異動などによる仕事経験の男女差が今回の調査でもはっきりしたのです。それから、“マミートラック*5 ”に入った女性が、そのマミートラックからなかなか抜け出せない現実も印象的でした。
*4 女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査(2019年度)
*5 出産後に職場復帰した女性がキャリアアップのレールに乗ることなく、組織内の補佐的な業務を担うなど、出世コースから外れた役割にあること。「トラック」は陸上競技の周回コースを指す。
さらにもうひとつ。これは男性についてですが、育児休業取得の経験者は、休業後も家事や育児を行っていることが多く、その結果、仕事を効率的に進められているようです。今年4月施行の法改正*6 でも男性の育児休業取得を推進していますので、育児休業の取得者は今後ますます増えていくことが予想されます。結果的に、それぞれの家庭にも職場にも良い効果がもたらされるのではないでしょうか。
*6 「育児・介護休業法」の改正。改正点は、事業主に対し、育児休業のための環境整備や周知・意向確認をすることの義務化、妊娠や出産について申し出をした労働者(本人または配偶者)に対しての個別の周知や意向確認、有期雇用労働者について育児・介護休業の取得要件の緩和など。
山谷さんが語る「一皮むける」仕事経験は、調査結果では、26~30歳・31~35歳・36~40歳のいずれの年齢階層においても、女性は「経験がない」という回答の割合が高くなっている。その要因はどこにあるのだろう。
山谷 男性管理職のアンコンシャスバイアスの存在が理由のひとつだと思います。「育児が仕事の障壁になるはず」「家事が優先だと、ハードな仕事の遂行は難しいのでは?」といった思い込みで、管理職が女性の仕事に勝手にブレーキをかけてしまうことがあるのです。「女性は、ひとつの部門で専門性を高めることを望み、部門を横断するような大きな異動や仕事は向かない」と考える管理職も見受けられます。そのために、「一皮むける」仕事経験の機会を女性が得られない状況になってしまう……もちろん、「そうした仕事は私には無理です」と自らおっしゃる女性もいますが、“女性=家事優先”が一般的と思い込んでいる管理職も少なくありません。今回はWEBアンケート調査とともに、ミレニアル世代の多くの方をインタビュー調査しましたが、ある女性は、「男性社員は、良い経験が積める部署に必ず行かせてもらえるのに、女性社員はそうではない」とおっしゃっていました。「行きたいです!」と強くメッセージしなければ、望む部署に異動できず、新しい経験をさせてもらえないそうです。その時、その女性は独身だったので、「子どもがいる」という理由ではありません。異動の経験に男女差があり、女性は「一皮むける」仕事経験がなかなかできないから、管理職やリーダーになることも難しいとおっしゃっていました。入社時の能力が同じでも、仕事の経験値が異なることで、能力の差がついてしまうことがあります。
男女共同参画局(内閣府)による「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」でも、「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきではない」「家事・育児は女性がするべきだ」といった男性の回答*7 が女性の回答数字を上回っている。男性のアンコンシャスバイアスが女性の仕事を左右することはあるだろう。
*7 「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計。
山谷 女性のキャリアを制限しようという意図ではなく、管理職のやさしい気持ちが裏目に出ていることもありますね。一方で、キャリアアップのための異動を望まない男性もいるわけですから、男性社員には“問答無用の異動命令”、女性社員には“恐る恐るの異動打診”という企業側の姿勢は時代に合わない気がします。当然、男性も女性も、一人ひとりが異なる就労観を持っているので、管理職は組織内のそれぞれのメンバーにしっかり向き合い、「一皮むける」仕事経験を望む方には、男女の差異なく、そのための機会を与えていくべきでしょう。
山谷真名 Mana YAMAYA
公益財団法人21世紀職業財団 上席主任・主任研究員
大学卒業後、株式会社リクルート勤務。出産退職後、大学院にて女性労働を研究。政策シンクタンク構想日本政策スタッフ、お茶の水女子大学研究員等を経て、2013年4月から、公益財団法人21世紀職業財団 職員。お茶の水女子大学では、文部科学省委託事業「ジェンダー格差センシティブな働き方と生活の調和」プロジェクトに従事。日米の女性活躍推進の課題を明らかにした。現在、成城大学・実践女子大学等で「女性とキャリア形成」や「労働とジェンダー」を担当している。財団では、女性活躍推進や調査分析に関する知見を生かし、調査研究や企業向けの調査・コンサルティングに従事。100社以上の実績がある。
<21世紀職業財団での調査研究の実績(隔年実施)>子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年度)、女性正社員50代・60代におけるキャリアと働き方に関する調査(2019年度)、「一般職」女性の意識とコース別雇用管理制度の課題に関する調査研究(2017年度)、若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究(2015年度)、育児をしながら働く女性の昇進意欲やモチベーションに関する調査(2013年度)