男性社員にも必要となる“キャリアを考える機会”

“デュアルキャリアカップル”を目指すミレニアル世代には、管理職との関係性をはじめとした職場環境や就労条件といった外部要因の壁があることが分かった。山谷さんは、異動などによる経験値の男女差も女性のキャリアアップを阻む壁となり、さらに、男性の内発的な姿勢も“デュアルキャリアカップル”になるかどうかを左右していると説く。

山谷 冒頭でお話ししましたように、若手社員の時の経験値の差がキャリアの差にもなりますので、会社側はキャリアアップを望む女性には男性同様の仕事の機会を与えていく必要があります。また、これはインタビュー調査でも感じたことですが、自分のキャリアについてしっかり考えている男性はデュアルキャリアカップルになりやすいようです。自分のことを考えるとともに、妻にキャリアアップについてのアドバイスを送るなど、妻のキャリアのことも考えるわけです。女性は出産などのライフイベントがあると、自分のキャリアを自分自身で顧みますが、夫と一緒に考えることで、デュアルキャリアカップルになる可能性が高まるのでしょう。また、男性が仕事の面白さを感じた経験がない場合、夫婦ともキャリアアップを目指さない割合が高いという調査結果*14 もあります。仕事の面白さを感じる男性が自分のキャリアについて考える場合は、「夫婦二人でキャリアップを……」となりますが、そうでない場合は、妻のキャリアアップを応援することもなく、二人ともキャリアアップを目指さない傾向があります。

*14 「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」のWEBアンケート調査におけるQ47=「【男性】仕事の面白さの経験別 夫婦のめざすキャリア」より。

 ミレニアル世代以上の、たとえば、バブル世代の管理職男性などは、就職してそのまま企業勤めを続け、自分のキャリアについてあまり考えないまま組織に従事している者も多いのではないか。

山谷 女性社員に対しては「キャリアデザイン研修」といったものを行っている企業もありますが、男性社員にも、自分のキャリアを考えるための研修がもっと行われてよいと思います。定期異動など、昇進のためのレールに乗せるだけではなく、自分のキャリアについてしっかり考える機会を会社側が用意すること――それが、近年、企業として必要となってきたキャリア自律を社員に促し、また、デュアルキャリアカップルを望む社員をバックアップすることになるでしょう。

 今回のインタビュー調査では、「自分が先に管理職になったので、次は妻の昇進を支援したい。そのために、これからは育児や家事を主に自分がする」という方もいらっしゃいました。

 言うまでもなく、“デュアルキャリアカップル”は、女性のキャリアアップなくして成り立たない。そのためには組織内におけるアンコンシャスバイアスをなくすことが重要だと、山谷さんは繰り返し語る。

山谷 「一皮むける」仕事経験についての話のとおり、管理職のアンコンシャスバイアスはデュアルキャリアカップルを目指す方たちの壁になります。独身女性に対しても、子どものいる女性に対しても、男性管理職のアンコンシャスバイアスが見受けられます。たとえば、「小さい子どもがいる女性には、責任の大きな仕事はふさわしくない」といった思い込みが、キャリアアップを望む女性をマミートラックに留めてしまうのです。そうして、夫のキャリアだけを妻が重んじることになり、デュアルキャリアカップルになる道が遠のきます。もちろん、子どもの小さいうちはキャリアアップを望まない方もいますから、管理職と部下一人ひとりとの十分な話し合いが必要です。また、キャリアに対する考え方はその時々で変化していくこともありますから、人事部や管理職によるヒヤリングは定期的に継続していくことが大切でしょう。「男性は育児の負担があまりないだろうから長時間働けるだろう」というのもアンコンシャスバイアスです。