「頑張っているのに報われない…」<br />そんな人が根本的に勘違いしていることPhoto: Adobe Stock

情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第1回は、2019年に刊行された山口周氏の『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』「人生のゲーム」が変わってきていることを、明快に記した1冊だ。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

「オールドタイプ」は、急速に価値を失っていく

 昭和から平成、令和と移り変わり、日本は大きく変わった。バブル期までの世界が驚く経済成長の時代は去り、大企業ですら倒産する競争時代がやってきた。家庭にも市場にもモノが溢れ、人々の消費行動は変わった。

 終身雇用が揺らぎ、成果主義が加わり、少子高齢化が顕在化、生活習慣や人生観にも変化が現れている。インターネットをはじめ、新しいテクノロジーがビジネスや暮らしを大きく変えた……。

 昭和の時代から考えると、実はとんでもなく大きな変化が進んだ日本。そんな中、ビジネスパーソンに求められる思考・行動様式が、変わっていないはずがない。

 そのことにおぼろげに気づいていた人も少なくなかったと思うが、これを明快に言語化し、書籍として世に送り出してくれたのが、山口周氏の『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』だ。

 山口氏は本の冒頭で、本のメッセージをずばり書き記している。

 20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて高く評価されてきた、従順で、論理的で、勤勉で、責任感の強い、いわゆる「優秀な人材」は、今後「オールドタイプ」として急速に価値を失っていくことになるでしょう。
 一方、このようなオールドタイプに対置される、自由で、直感的で、わがままで、好奇心の強い人材=「ニュータイプ」が、今後は大きな価値を生み出し、評価され、本質的な意味での「豊かな人生」を送ることになるでしょう。

頑張っているのに報われないと思っている人へ

 本書の執筆背景について、山口氏はこう語る。

「成功の復讐とでも言うべきか、昭和型の価値観が、いろんなところで悪さをしている感覚があったんです」

山口周山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

 オールドタイプの思考・行動様式が、現代の問題を拡大再生産していることにも気がついていた。世界中でゴミが深刻な問題を引き起こしているが、これは「量的な向上」を無条件に是とするオールドタイプの思考・行動様式が生みだした結果でもある。

「社会的な地位にある人が、今の感覚ではみっともないと思えることをしている姿を見て、強烈な嫌悪感を持っている若い人もいたんですね。彼らからすれば、裏切られたという感覚を持っていたと思う。自分たちはあんなふうになってしまうのか。勉強すれば成功できるとか、会社は悪いようにしないとか、信じていたのに嘘だったんじゃないか、と」

 だから読者として意識したのは、頑張っているのに報われないと思っている人だったと山口氏は語る。

「言われた通りに頑張ったとか、いい大学を出ましたとか、大きな会社に入りましたとか、一生懸命やっているのに報われ感がないし、評価をされている感じもしない。この先に、何か自分の人生が開く感じもない。頑張っているんだけど、モヤモヤしている人です」

 それは、頑張り方が間違っているのだ。

「オールドタイプのゲームを戦ってしまっているんですよ。頑張り方のレイヤー、努力のレイヤーを変えないといけない。レイヤーがずれている可能性があるんです。そういう人は、本を読んでもらえば、自分が間違った方向に向かっていることに気づけるんじゃないかと思います」

誰もにとっての正解は、もはや人生にもない

 一方で大事なことは、この方向に行けばいい、という誰もにとっての正解は、もはや人生にはないということだ。

「それを前提とした戦い方が、この本には書かれていると思うんです。不確実性が高い中での戦略というのは、確実性が高い状況における戦略とは変わってくる。いいこと、悪いことの価値観は、時代の文脈の中でできあがっていくわけですが、人間の頭は保守的ですから、状況の変化より反応が遅くなってしまうんです」

 世の中が変わっているのに、必要な価値観が変わっていないとすれば、いずれその歪みは揺り戻しとなって直撃する。そうなる前に、対処が求められるのだ。

 では、今はどんな思考・行動様式が求められているのか。次回から詳しく見ていこう。
(次回に続く)

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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