なぜ、いい大学を出ても<br />社会で生き残れないのか?Photo: Adobe Stock

情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第1回は、2019年に刊行された山口周氏の『ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式』「人生のゲーム」が変わってきていることを、明快に記した1冊だ。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

成功者の思考・行動様式とよく似ていた

 この記事を書いている私は、これまで3000人以上に取材をしてきた。著名な起業家、経営者、科学者や俳優、スポーツ選手など対象者は多岐にわたるが、『ニュータイプの時代』を読んでいて感じたのは、実は多くの成功者の思考・行動様式とよく似ていたことである。

 本書では、「飽和するモノと枯渇する意味」「問題の希少化と正解のコモディティ化」「クソ仕事の蔓延」「社会のVUCA化」「スケールメリットの消失」「寿命の伸長と事業の短命化」という6つのメガトレンドを語った上で、24の「ニュータイプ」について解説が行われているが、冒頭で代表的なものが表になって記されている。

これから求められる思考・行動様式(山口周『ニュータイプの時代』より)これから求められる思考・行動様式(山口周『ニュータイプの時代』より)

正解主義から、なかなか日本人は脱却できない

 中でも、象徴的なオールドタイプだと山口氏が語るのが、「正解を探す」だ。しかも、この正解主義から、なかなか日本人は脱却できていない。

 だが今、ビジネス社会で求められているのは、誰にもわかりやすい正解ではないことに多くの人が気がついているはずだ。そんなものは、あっという間に真似されてしまうからである。

 求められているのは、正解を探す力ではなく、問題を探す力。希少な問題を見つける力だ。そこで生きてくるのが、アートや美意識だと山口氏は早くから説いてきた。

山口周山口 周(やまぐち・しゅう)
独立研究者、著作家、パブリックスピーカー
電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

「ところが教育現場でも、今なお正解を早く出せる子が偉いという感覚でしょう。アートは正解がないですからね。また、正解はつまり人と同じがいいということ。個性は圧殺される」

 正解を出すことが、社会において価値を持った時代があったことは間違いない。

「豊かになる過程では、普遍性の大きな問題から順番に解決されていきます。正解を出せば、経済価値が生まれましたから、正解を出す人が求められたのは必然的だったんです」

 しかし、世の中は大きく変わった。モノが溢れ、市場が飽和していく中で、価値創出の源泉は、「問題を解決し、モノを作り出す能力」から、「問題を発見し、意味を創出する」能力へとシフトしていったのだ。

「高い偏差値のいい大学を出たのに、社会に出て難しい状況になってしまっている人はたくさんいます。つまり、市場のニーズと能力のアンマッチが起こってしまっているんです」

むしろ、状態は昔よりもひどくなっている

 だが、変わるには怖さがつきまとう。だから今なお、大学の偏差値を見て人材採用のプライオリティを決めてしまう企業が多い。学校も、偏差値の高い大学に行ける子どもを育てることが一大産業になってしまっている。

「びっくりする話を聞いたんですが、ある小学校では進学塾に8割ほどの子どもが通っていて、その進学塾の成績順のクラスが、学校でもカーストのように使われていたというんです。成績のよくない子が成績のいい子に馬鹿にされ、学校に行けなくなってしまっていたりする、と。正解主義から、波及的に貧しい状態が生み出されてしまっているんです」

 むしろ、状態は昔よりもひどくなっている、というのだ。

「世の中を生き抜いていくことが、より厳しい状況になってきていますから、親御さんもサバイブさせようと過熱してしまうのでしょう。いい大学に行かないと、生き残れないと思い込んでしまっている。しかし、正解を出すだけの人材は、もういらないんですよ。人工知能もあるわけですから。すでにゲームは変わってしまっていることに気づいていない」

 そして日本がニュータイプへの転換を苦手にしているものが、もう一つあるという。
(次回に続く)

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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