高い価値の仕事を生み出せる組織へと変わるための「7つの施策」
高度経済成長時代から引き継がれる「成長」「拡大」を求める思考を、一度リセットせよ。「限りを設けることで生き残る」とは、具体的にどんなイメージなのか。
中野 例えば、自動車を100万台売るのではなく「30万台しか売らない」と決めたときには、全く新しい発想が生まれるはずです。単に数字を伸ばすのではない、「誰にどう満足してもらうか」という視点で、高付加価値を生む仕事の仕方を考える。
働き方についても同じで、あえて“限り”を設けてみることで工夫や創造が生み出される。1日10時間働いて月30万円を稼ぐスタイルに身を委ねず、1日3時間だけ働いて同じく月30万円稼ぐにはどうしたらいいかを頭を使って考えるべきです。
短時間で効率的に稼げる組織に変われば、時間のゆとりが生まれます。ゆとりは個人の幸福感に直結しますし、クリエイティブなアイディアにつながる。すると、業績も自然と上がるでしょう。がむしゃらに働いて生産量で稼いでいた時代は終わり。これからの日本が成熟した経済社会を目指すならば、本質的な豊かさを顧客に提供し、自分たちも豊かさを享受する。そんな姿を目指すべきではないでしょうか。
ただ拡大を目指すのではなく、顧客をあえて限定して高付加価値を生み出すのが、これから目指すべき働き方。そう語る中野さんは企業再生を託されたときには、まっさらな気持ちで「この会社の資産を今、最大限に生かすには」と考えるという。
寺田倉庫時代にも、水辺に面した10万平米の土地の魅力を生かし、天王洲エリアを“アートの街”へと生まれ変わらせた。同時に、富裕層向けにワインや絵画作品を預かる事業をスタート。「倉庫業」から「不動産業」への鮮やかな転換を導いた。
中野 1年前に熱海に呼ばれ、1954年創業の「ホテルニューアカオ」の再生を託されました。ここでやろうとしていることも同じ。今の時代に合った、かつこの会社が持つ価値を最大限に生かせる事業への転換です。具体的にはホテル事業を一旦やめて、リゾート事業に注力していきます。それも2年という短期間で結果を出すつもりです。事業を改革するには、「人」が変わらないといけない。適材適所で、一人ひとりが能力を発揮して、高い価値の仕事を生み出せる組織へと変わらなければ。そのために、7つの施策を始めました。
その1つ目として、CEOに就任するのとほぼ同時に始めたというのが、「社内ドラフト制度」と名付けた人事改革だ。
中野 新しい事業を始めるときの人事を、等級や所属にとらわれずに誰でも応募できる公募制にしたんです。募集ポジションを明確に掲げて、やる気のある人なら誰でも手を挙げられる制度です。事業部長の募集に、20歳の新入社員が手を挙げても構わない。
しかも、採否は人事や役員が決めるのではなく、社員全員の投票で決めるんです。そして、リーダーに選ばれた人がチームメンバーを募集する。社外から連れてきたっていい。もしメンバーが集まらないとしたら、リーダー不適格だということです。能力とやる気のある人が自らチャンスをつかんで、能動的に仕事をつくる。そんな人事を実現するために、この「社内ドラフト制度」を導入しました。