「報酬は、成果給ではなく“期待給”」、稀代の経営者が掲げる異色の人事改革「7つの施策」

「人事改革は、企業再生の要」――そう語るのは、大胆な経営改革によって寺田倉庫を復活へと導き、経営者のファンも多い中野善壽さんだ。2021年8月には、赤字経営に苦しむ熱海の老舗リゾート、ACAO SPA & RESORT(旧:ホテルニューアカオ)代表取締役会長CEOに就任し、「ACAO SPA & RESORT」としてリバイバルに挑む。いったいどんな人事改革を構想しているのか。すでに着手を始めたという「7つの施策」について聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部 文/構成:宮本恵理子 撮影:和田佳久)

「人事改革に王道はなし」

 中野さんは1944年生まれ。伊勢丹、鈴屋で海外事業に深く携わった後、台湾へ。現地企業の要職を経て、2011年から寺田倉庫のCEOとして経営の舵を取り、天王洲エリアをアートの力で生まれ変わらせた“企業再生のプロ”として知られる。現在は、熱海の老舗リゾートACAO SPA & RESORTのトップとして経営改革に挑んでいる。中野さんは「人事改革」をどう位置付けているのか。

中野 まず前提として理解しなければならないのは、「人事改革に王道はない」ということです。事業や職種、組織の文化や歴史、そこに集まる人たちの構成によって、ルールも評価のあり方も変わるのが当然ですよね。だから、一律の制度をつくることがそもそも難しいんです。

 僕の場合は、企業再生を頼まれることが多いんです。人事改革はそれを目的として行うものではなく、あくまで企業再生の手段。企業に命を吹き込むために、そこで働く「人」に対してどのような向き合い方が必要なのか。そんな視点で考えます。だから人事のプロの方から見ると、ちょっと常識外れであったり、極端な方法に映ったりするかもしれませんね。ただ、「企業の風土をゼロベースで建て直したい」という気持ちのある方にとっては、少しはヒントになるかもしれません。

 人事改革の前に企業再生という目的があるという中野さん。どんな思想をベースにして、人事改革に着手するのだろうか。

中野 小手先の制度改革を始める前に考えるべきは、「これから日本の企業はどうあるべきか」というビジョンです。つい先日もある国際会議で意見を述べたところですが、「あえてお客さんを絞ってビジネスモデルを考える」という発想が必要ではないかと僕は考えています。

 グローバル経済が浸透しつつある今の時代には、つい世界70億人を対象に「拡大」を目指しがちですが、多くの人に60点の価値を提供しても仕方がない。結局、「誰にも響かないモノやサービス」をつくっては疲弊するサイクルに陥ってしまうだけ。それでは日本の企業は生き残れないでしょう。やるべきは「限りを設ける」というアプローチです。「顧客は世界で1億5000万人でいい」と決めて80点を目指す。そのほうがはるかに生産的でユニークなビジネスが生まれるでしょう。

「報酬は、成果給ではなく“期待給”」、稀代の経営者が掲げる異色の人事改革「7つの施策」

中野善壽 (なかのよしひさ)

ACAO SPA & RESORT株式会社 代表取締役会長 CEO

1944年(昭和19年)東京生まれ。1991年に台湾へ渡り、力覇集団、遠東集団や亜東百貨などの流通大手で経営幹部を歴任。2011年から2019年まで寺田倉庫の代表取締役社長 CEOを勤め、天王洲エリアの再開発を手がけた後、東方文化支援財団を設立。地方再生や若手アーティストの支援を行う。2021年8月、ACAO SPA & RESORT株式会社 代表取締役会長 CEOに就任、現在に至る。