この問題にあっては、安倍晋三元首相が殺害され不在となったことの影響が大きいと言わざるを得ない。事件の背景を含む詳細は解明されていないし、まだ日がたっていないので、事件の意味や安倍氏の政治・政策全体に対するコメントは控えて、「心よりご冥福をお祈り申し上げる」としか言えない。ただ、向こう1〜2年の経済政策にあって、彼の「不在」の影響は大きい。

 元々岸田氏は、昨年の自民党総裁選挙の直前辺りまでの発言を見ると、(1)アベノミクスの金融緩和政策の修正と、(2)財政再建の二つを指向していたように思われる。

 他方、安倍氏は、インフレ目標の達成およびそのための金融緩和の重要性を強調し、加えて、積極的な財政政策を主張していた。彼は、デフレ脱却のためには金融政策だけでは不十分な場合があり、こうした場合に積極的な財政政策の後押しが必要なことを理解していたと思われる。

 この点の理解が不足していて、金融緩和だけで十分だと思っていたり、いわゆる「財政再建」と当面の金融政策の目標が矛盾することを理解していなかったりする議員・官僚・有識者は少なくなかった。そのため、党の有力者である安倍氏の存在は今後の政策にとって重要だった。

金融政策の転換に動くのは
党人事・内閣改造の後か

 一方、岸田氏は総裁選で安部氏のグループからも協力を得るために、表面的には安倍元首相・菅前首相の経済政策を継承する方向転換を見せた。ところが、時に生じる株価に対してネガティブな発言や、今年既に行われた日本銀行の政策委員の人事などを見ると、アベノミクスから距離を取ろうとしているように見える。

 この状況にあって、首相OBにして党内の有力者である安倍氏は、岸田氏の政策転換を阻止しようとする、いわば「重し」の役割を果たしていた。

 岸田氏にとっては、参院選の勝利と同時に生じた安倍氏の不在は、経済政策に対するより大きな自由を得たことを意味するのではないか。

 ただし、安倍氏の死去はあまりにも劇的なものだったので、当面すぐには「アベノミクスの修正」と受け取られるような政策を打ち出しにくいと予想される。

 動き出すのは、今後に予想される党人事および内閣改造の後だろう。内閣改造では、財務大臣、経済産業大臣、あとはもう一つの問題との関連で厚生労働大臣に誰を充てるのかに注目したい。