世間の注目を集めている人事であり、うわさベースでは既に後任の総裁候補の名前が幾つか挙がっている。次は日銀プロパーの総裁の順番ではないかとの連想から、中曽宏前副総裁、雨宮佳彦現副総裁などだ。

 デフレ脱却を確実なものとするためには、「インフレ目標が未達の段階で金融引き締めに政策転換しない(と目される)総裁、副総裁」の任命が適切だ。だが、そうならない可能性が否定できない。日本の経済および資本市場における「岸田リスク」としては、最大のものだろう。

 なお、筆者が推す次期日銀総裁候補は、前出の2人と同じ副総裁経験者である若田部昌澄現副総裁だ。「若田部総裁」であれば、アベノミクスの根幹部分であるマイルドなインフレの定着を目指した金融政策の継承を強いメッセージとして発することができる。副総裁の経験を積んでいるし、学識も57歳という年齢も申し分ない。

 他の副総裁経験者が総裁になる場合と比較すると、株価的には日経平均株価換算で数千円単位の株高材料だろう。もっとも、人事的慣例から見て「若田部総裁」の実現確率は残念ながら大きくはなさそうだ。

 しかし、アベノミクスを継承する場合の人事として、岸田首相にはぜひ頭に入れておいてほしい選択肢だ。株式市場が恐れている最大の「岸田リスク」をポジティブなサブプライズに変えることができる。

資産所得倍増に沿う政策は年末が焦点
「ゼロ回答はあり得ない」と期待

 経済政策としては大きなものではないが、先般岸田首相が口にした「資産所得倍増」についても簡単に触れておこう。

 この路線に沿った政策は、今年の年末にかけて出てくることが確実視される。NISA(少額投資非課税制度)、つみたてNISAなどの非課税運用枠の増額と、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入年齢延長は、年末の税制関係の検討プロセスで議題に上ることが確実視できる。「富裕層も含めた資産からの所得の倍増」よりも先に「資産形成層の資産所得倍増」を目指すことが、経済格差拡大に対する対策の点で望ましいだろう。また、政策の実現性の点でもちょうど良いのではないか。

 首相が口にした方針なので「ゼロ回答はあり得ない」と期待したい。

 併せて、金融教育の一層の充実や、金融的なアドバイスに関わる制度的な整備など、国民の投資と資産形成のための環境整備をセットで実現してほしい。