なぜなら、顔の中でも特に鼻から頬、唇にかけては、「動静脈吻合(AVA)」と呼ばれる、体温調節を専門とする血管が走っているからだ。

 AVAは、動脈と静脈が切り替わる手足の末端や頭部にあって、閉じたり開いたりして血流を調節し、体温調整を担っている。拡張すると毛細血管の10倍の太さになって血流量は1万倍にもなる一方、完全に閉じることもある。

 例えば、暑い場所では血液が皮膚表面に近い静脈を流れて外に熱を逃がせるよう、交通整理をする。暑いと頬が赤くなるのはそのためだ。皮膚表面から浅いところに毛細血管が張り巡らされているので、血液の色が透けて見える。

 ところがマスクは、頬から鼻、唇を全部覆ってしまう。AVAは役割を果たせず、体温が上がっていく。

 さらに、吐き出す息(呼気)からも水蒸気とともに熱が放出されるはずが、それも妨げられて熱がこもる。湿気が閉じ込められるので、喉の渇きを感じにくくなり、意識的に水分を摂取しないと自覚症状のない「かくれ脱水」に陥りやすくなる。

 この脱水こそが、熱中症の分かれ目ともいえる。そのまま進めば発汗が減って体温が上昇し、体内の調節機能が狂い始めて、熱中症まっしぐらだ。

要注意!「かくれ脱水」のサインとは?
飲み物を間違うと脱水悪化や命の危険も

 熱中症を回避するには、「脱水」の予防が必須だ。

 人は体の5%の水分を失うと脱水や熱中症になるとされるが、なってしまったら水を飲むだけで体調を回復させることは難しい。意識障害など、水を飲めない状態になることも多い。

 本格的な脱水の手前で、体内の水分状態を正常化しなければならない。

 そのためには、以下のような「かくれ脱水」のサインを見逃さないことだ。

● 唾液がねばつく
● おしっこの色が濃い、回数が少ない
● 便秘がち
● 舌が乾く、ザラザラ、赤黒い
● 脇の下がカサカサに乾いている
● 足がむくむ(靴下の痕がなかなか消えない)
● 皮膚をつまむと、3秒以上形が戻らない
● 爪を押した後、赤みが戻るのが遅い

 上記の点に気付いたらすぐ、経口補水液やスポーツドリンクなど、電解質入りで吸収の早い飲料を取ることだ。

 緑茶やコーヒーなどカフェインの入った飲み物、アルコール類は適さない。脱水・利尿作用があり、やはりおしっこが増えて、取った以上の水分が体から排出されてしまうからだ。

 ビールのおいしい季節だが、飲みたいならビールにもチェイサー(一緒に飲む水など)を用意しよう。お茶やコーヒーは、ノンカフェインのものを選ぶといい。

 また、汗をたくさんかいたときも、ただの水やお茶でなく、必ず電解質入りの経口補水液やスポーツドリンクを選ぶようにする。汗と一緒に塩分(ナトリウム)やカリウムなどの電解質が失われているので、水分だけを大量投入すると、血液が薄まってしまう。

 血液中のナトリウム濃度が低下すると、「低ナトリウム血症」になる。軽ければ疲労感を感じる程度だが、もっと薄まってしまうと頭痛や嘔吐(おうと)、食欲不振のほか、反応の低下や錯乱などの精神症状も出てくる。重症ではけいれんや意識障害が起こり、昏睡から死に至ることもある。