「世界の民族」超入門

日本で生活していると「日本の報道」に触れることはあっても「世界の報道」に触れる機会はなかなかない。しかし、じつは世界では大きく報道されているニュースでも、日本ではほとんど報道されていないものもある。今回は『ビジネスエリートの必須教養 「世界の民族」超入門』の著者で元外交官、世界96カ国を訪れた経験を持つ山中俊之さんに「日本人に理解してもらいたい世界の時事問題ベスト3」を聞いてみた。さらに、山中さんがおすすめする「日本目線」だけでなく「世界の目線」に触れられるメディアも必見。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

知っておくべき「世界の時事問題」

――山中さんは外交官として活躍され、その後も含めると世界96カ国を訪問されているのですが、日本と世界を比べた場合、報道されているテーマや内容に違いを感じることはありますか?

山中俊之(以下、山中):ものすごくあります。もちろん、どの国も「自分たちの国の目線」はありますし、それぞれに関心があるテーマは違うのですが、日本のメディアは「特にここが弱い」と感じることがあります。

――たとえば「いま、日本人にもっと知ってもらいたい時事問題」を挙げるとしたら、どんなものがあるでしょうか。

山中:一番は移民・難民問題です。ロシア・ウクライナの戦争が起こり、避難民のことはけっこう報じられましたが、世界的に見て、日本の人口あたりの難民の受け入れ率や申請して受け入れられる人数は非常に低いです。

 移民・難民は世界では大問題で、アメリカ大統領選挙でも主要な論点になります。イギリスがEUから離脱する問題、いわゆるブレグジットも移民・難民の問題が根底にあります。

 しかし、日本ではあまり話題になりません。避難民の話が多少あったとしても、総選挙で「難民の受け入れをどうするか」「移民についてこうしていこう」なんて話はまず論点に上がらないですね。それだけ国民の関心が低いということです。

なぜ、日本の報道はズレるのか?

――世界では大きな論点になるのに、日本ではならないのはどうしてなのでしょうか?

山中:島国で、移民や難民が陸路で来ることがないのは1つの理由でしょうね。物理的に国境を越えて、やってくるのが難しいという点です。

 そうした地理的環境も手伝って、日本人のマインドというか、問題意識が非常に低いというのはあるでしょう。かつてベトナム難民を相当数受け入れたことがありましたが、それ以降は大きく受け入れたことはほぼありません。

 じつはこれは世界では恥ずかしいことでして、国際会議に参加したことのある人であれば、そうした日本のスタンスが話題になり、恥ずかしい思いをしたことがある人も多いはずです。

「難民を受け入れる、受け入れない」以前の話として、もう少し世界の大問題に関心を持つことは必要だと感じます。

 以前、ある海外メディアの日本語版をつくっている編集者が「(海外版では載っていても)日本語版にするときに扱わないテーマがあって、それが移民・難民の問題だ」と言っていました。

 このテーマを扱っても売れないんだそうです。こういったことが積み重なって、「日本の報道」と「世界の報道」との間に大きなギャップが生じていくのだと思います。

「再生可能エネルギー」への関心が低い日本

――移民・難民問題とは別に、世界と比べて特に日本のメディアが報じないテーマはありますか?

山中:再生可能エネルギーに関する話題ですね。もちろん日本でも再生可能エネルギーに関する報道はありますが、世界に比べて圧倒的に少ないですし、私の肌感覚ですが、国民の意識も低いと感じます。

 脱炭素を実現する動きは世界では活発に議論されていますし、EUのなかでも特にドイツは熱心に再生可能エネルギーに関して主張していますね。

 といっても、社会のなかで、なんでもかんでも賛成、賛同されているわけではありません。

「自然を破壊してソーラーパネルを設置しているなんておかしいじゃないか!」「壊れたらどう対処するのか!」などの反対意見もありますし、「風力発電の騒音の問題」など賛否両論いろんな意見が出て、活発に議論されています。

 日本もそうですが、世界の国々だって、旧来の電力系の会社から多くの献金を受けている政党や政治家はいますから、どの国も、ものすごく再生可能エネルギーへの移行が進んでいるわけではありません。

 そこは一筋縄ではいかないんですよ。ただ、再生可能エネルギーの問題が日本に比べて盛んに報道され、活発に議論されていることは間違いありません。

日本は「個人の影響力」を軽視している

――地球環境を考えれば、再生可能エネルギーの問題を考えることの大切さは日本人も理解していると思うのですが、そこへの関心が低かったり、活発な議論にならないのはどうしてなんでしょうか。

山中:アメリカやヨーロッパでも関心のある人とそうでない人の差はあるので、そこは日本も同じだと思います。ただし、報道のされ方というか、討論番組のつくりにはちょっと違いを感じます。

――「番組のつくり」が違うとはどういうことですか?

山中:日本のテレビでも討論番組はそれなりにあるんですが、あそこに出てきている人たちは、立派な肩書きがある人ばかりのように感じるんですよ。

 政治家や弁護士はもちろん、さまざまな活動をしている人が出演する場合でも、NPO法人の代表、一般社団法人の代表みたいな人が多いですよね。

――確かにそうですね。

山中:一方、アメリカやヨーロッパでは、こうした社会課題に対して個人で精力的に活動している人がどんどん番組に出て、活発に議論しているんです。

 個人的な印象ですが、日本はそうした個人の活動家の影響力をやや軽視しているように感じます。

 海外では、そうした人たちが株主総会にもシェアホルダーとしてガンガン入ってきて「企業の意思決定に影響力を及ぼしていこう」という動きが活発です。企業側の人たちにとっても、無視できない影響力を持ってきているんです。

 日本企業の役員たちでも、そうした動きに敏感な人たちは積極的に対応しているのですが、まだまだ「そんなに重視しなくていいよ」「適当にあしらっておけ」「めんどくさい連中」くらいにしか捉えていない人もたくさんいます。

 その辺りからも「個人の影響力が軽視されている」と感じますね。

 でも、日本でも少しずつ、そうした影響力を無視できないようになっていくと思います。株式総会のシェアホルダーとしてやってきて「環境問題に詳しい人が取締役に1人も入っていないじゃないか!」「そんな決議は賛成できない」と言い出す人は出てくるでしょう。

 もちろん、そうした人がたくさんの株を持っていることは稀でしょうから、最終的に提案は通らないでしょうけど、でも、少しずつ議論は活発にはなっていくと思います。