日本のメディアは政治関連のウェイトが高すぎる

山中:最後にもう1つ挙げるとしたら、やはり「新冷戦」というか「世界の安全保障」についてでしょうね。ロシア・ウクライナの戦争が起こったことで世界は再び分断に向かっているとは思うんです。

 これからロシアが中国とさらに結びついていく可能性はありますし、少なくとも、軍事力によるバーゲニングパワー(国際間の交渉・折衝における対抗力)は強まったと思います。

 実際に軍事行動を起こさないまでも、軍事行動を起こすギリギリのところまでいってから妥協点をみいだす。そんな外交手段、外交圧力がもっともっと起こってくるかもしれません。

 2008年にロシアがジョージアに侵攻しましたが、それ以前の国際政治の専門家が現代の状況を見たら、この現状に驚嘆すると思います。それくらい軍事力による外交は起こりやすくなっているのが実態です。

 核兵器はもともとバーゲニングパワーですし、軍事力全般を含め、外交におけるそのウエートは高まったと言わざるを得ません。

 それは国家間の緊張を高めてしまうだけでなく、国の予算が軍事力に割かれるようになって、福祉や教育への割り振りが少なくなってしまうなど、私たちの日常生活にも直接影響してきます。そうしたことに、もっと私たちは目を向けていかなければならないと思います。

【元外交官が語る】「日本のニュース」が「世界標準の報道」からズレる理由

――日本で生活していると、どうしても「日本目線の報道」にしかなかなか触れることができないのですが、少しでもグローバルな情報、視点をキャッチするために「これはチェックしておいた方がいい」というメディアはありますか。

山中:できれば、英語メディアを取り入れたいです。「ニューヨーク・タイムズ」は、玉石混合のネット情報とは一線を画する信頼性の高さで購読者数が世界で増加しています。

 世界での影響力という点では、「エコノミスト」や「タイム」といった雑誌を目を通すことにも意味があります。日本語版で出ているものとしては、「ニューズウィーク」が良いと思います。英語メディア以外では、世界各国の報道が日本語で見れるNHK BS1の「ワールドニュース」がお奨めです。

 私はよく新聞記者の方ともディスカッションさせていただくのですが、日本の報道は政治に寄りすぎているように感じます。もっと世界情勢や経済、ビジネスの最先端などの報道がされてもいいのにと常々思っています。

 首相が何を言ったとか、何をしたとか、選挙がどうなっている、などもいいのですが、政治家の失言やスキャンダルも含めて、政治の話題が多すぎますよね。

 そういう意味でも、ときには世界のメディアに触れて、いつもとは違った目線で世界や社会を見つめることが非常に大切だと思います。

■著者紹介
山中俊之(やまなか・としゆき)

著述家。芸術文化観光専門職大学教授。神戸情報大学院大学教授。株式会社グローバルダイナミクス取締役
1968年兵庫県西宮市生まれ。東京大学法学部卒業後、1990年外務省入省。エジプト、イギリス、サウジアラビアへ赴任。対中東外交、地球環境問題などを担当する。エジプトでは、カイロのイスラム教徒の家庭に2年間下宿し、現地の生活を実際に体験。首相通訳(アラビア語)や国連総会を経験。外務省を退職し、2000年、株式会社日本総合研究所入社。2009年、稲盛和夫氏よりイナモリフェローに選出され、アメリカ・CSIS(戦略国際問題研究所)にてグローバルリーダーシップの研鑽を積む。2010年、グローバルダイナミクスを設立。研修やコンサルティングを通じて、激変する国際情勢を読み解きながらリーダーシップを発揮できる経営者・リーダーの育成に従事。2011年、大阪市特別顧問に就任し、橋下徹市長の改革を支援。カードゲーム「2030SDGs」の公認ファシリテーターとしてSDGsの普及にも努める。2022年現在、世界96カ国を訪問し、先端企業から貧民街、農村、博物館・美術館を徹底視察。コウノトリで有名な兵庫県豊岡市にある芸術文化観光専門職大学の教員としてグローバル教育に加え自然や芸術を生かした地域創生にも注力。ケンブリッジ大学大学院修士(開発学)。高野山大学大学院修士(仏教思想・比較宗教学)。ビジネス・ブレークスルー大学大学院MBA、大阪大学大学院国際公共政策博士。テレビ朝日系列「ビートたけしのTVタックル」、朝日放送テレビ「キャスト」他に出演。著書に、『世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)などがある。
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