LIXILは、なぜ、Workplaceを浸透させることができたのか。

「Workplaceを真っ先に使い始めたのは、瀬戸さんをはじめとする経営陣だったんです。要は、トップが徹底的にコミットする姿勢を見せたこと。これが組織のカルチャーを大きく変えました。同じことが、今回のノーコード開発にもいえると思うんです」(岩崎さん)

 岩崎さんはもう一つ、今のLIXILのカルチャーが垣間見えるエピソードを教えてくれた。瀬戸さんを含め、多数の参加者がいるオンライン会議での一コマだ。

「ある社員がプレゼンをしていると、お子さんが入ってきました。彼女は『今はダメだから向こうへ行ってて』と言ったんです。すると瀬戸さんが、『一緒にいていいじゃないですか。待ってますよ。気にせずに』と声をかけたんです」(岩崎さん)

 なんてことない一言かもしれない。しかし、心からそう思っていないと、とっさにこの言葉は出ないかもしれない。時短勤務や男性の育休取得など、ワークライフバランスに寄与するルールはいくらでも作れる。しかし、ルールを作っただけでは「ルール上はそうだけど、やっぱり迷惑かけちゃうよね」と遠慮して、権利を享受できない人もいる。こうした不安を和らげようとするトップの姿勢も、全てがカルチャー変革につながっていく。

このアプリがすごい

 最後に、岩崎さんも驚いた「すごいアプリ」を挙げてもらった。

「とある24時間365日止めてはいけない工場の生産ラインでAppsheetが動いているのを見たときは、『マジか!?』と思いました。でも、よくよく聞いてみると、CoEチームの審査は通っていたんです」(岩崎さん)

 現場でアプリの作者に聞くと、「紙の作業がアプリになって、とても楽になりました。超いいっす」と目を輝かせたという。岩崎さんが、「ネットワーク回線が止まったらどうするの?」と尋ねると、「え、ネットワークってそんなにすぐ止まらないですよね?」。

「リスクが大きければ使用をやめてもらうことも考えましたが、幸いAppSheetはネットワークが短時間止まってもアプリを使い続けることが可能です。こうした可用性を高める設計を入れていくことで稼働継続としました。ここでのポイントは、アプリでも紙の運用のままでも、どちらも何らかのリスクはある。要は、リスクの内容が変わっただけだということです。このようなリスクもケース別にコントロールし、最終的には全体価値向上を狙っていきます」(岩崎さん)

 現在、CoEチームの審査を通過し、実運用されているアプリは800に上る。プロジェクトは徐々に岩崎さんらチームの手を離れ、自走フェーズに移りつつある。工場で見つけた現場の“暴走”は、その証明でもある。従業員が作ったアプリの動画を見せるとき、岩崎さんはまるで大事な宝物を披露するかのように誇らしげで、うれしそうだった。やはり、数字だけを見てLIXILの取り組みをまねるのは危険だ。