LIXILが「アプリ乱立リスク」を取ってでも変えたかったもの

LIXIL 常務役員 デジタル部門 システム開発運用統括部 リーダー 岩﨑磨さんLIXIL 常務役員 デジタル部門 システム開発運用統括部 リーダー 岩崎磨さん(提供:LIXIL)

「乱立上等」

 そう言って岩崎さんは笑った。「真の目的は、組織全体のデジタルシフトを見据えたカルチャー変革です。アプリが乱立することよりも、それを恐れて何もしないことのほうがリスク。まずは『自分でもアプリが作れるんだ』と多くの従業員に実感してもらうこと。これこそが、大きなパラダイムシフトになりました」(岩崎さん)

 とはいえ、何でもかんでも許容しているわけではない。LIXILが採用したノーコード開発ツール「Google AppSheet」は、Excelマクロとは違い、いつ誰がどのように作ったかがクラウド上で把握できる。また、リリース前にはプロジェクトを推進するCoE(センターオブエクセレンス、組織を横断する取り組みを行い、社内で何かを行うときの効率化やスピードアップを目指す部門のこと)チームが審査し、可能な限りリスクをコントロールしているのだ。

 もう一つ、「デジタル部門の限界をイノベーションの限界にしたくない」という思いもあった。デジタル部門には、アプリ開発を含め、日々多数のリクエストが舞い込む。しかし、優先順位や費用対効果との兼ね合いで、期待に応えられないケースも多かった。従業員自らほしいアプリを開発できるようになれば、この限界を突破できる。

「ここで大事だったのは、全従業員に対して僕らの限界を正直に伝えて謝ることでした。人気アニメ『最終兵器彼女』の『実を言うと地球はもうだめです』をイメージして、『希望を持たせてしまってすみません。デジタル部門は全てをかなえることができない状態になってしまいました』と、メッセージを発信したのです」(岩崎さん)