「アプリ開発に目覚めちゃいました」

 狙いは的中した。デジタル部門に依頼してもなかなか作ってもらえなかったアプリが、自分の手で作れるようになったのだ。それがあまりに楽しくて、「私、アプリ開発に目覚めちゃいました」と次々アプリをリリースし、周囲を驚かせる役員もいたという。

「仮に、ITが得意なメンバーを集めてアプリを作ったとしても、結局そのメンバーに依存するようになるだけで、民主化は進まないでしょう。まずは役員がやってみて、『私もできたんだから、あなたもやってみて!』という流れを作ったことで、次は部長クラスが作り、次は現場が……と、一気に民主化が進みました」(岩崎さん)

 もう一つの収穫は、役員と若手が二人三脚で挑んだことで、二者の距離がぐっと縮まったこと。ITが得意な若手の活躍の場が増え、評価されるようになったのだ。上から下への伝言ゲーム、世代間のコミュニケーション不足といった課題は大企業にありがちなもの。今回のプロジェクトは、こうした課題を解決に導く糸口も示してくれているように思う。

カルチャー変革は一日にして成らず

 ある従業員は、「ここ数年で、LIXILは全く別の会社かというほど大きく変わりました」と証言する。根底には、「全員がフラットに意見を言い合える文化にしていきたい」というCEOの瀬戸欣哉さんの思いがある、と話す。

 実は、新型コロナ以前から、LIXILを取り巻く環境は決して良いとはいえなかった。グループの売上収益の約7割を占めるのは国内事業だ。しかし、人口減少の一途をたどる日本で、住宅の新規着工件数が増える見込みはなく、縮小は目に見えていた。

 瀬戸さんは、新方針「変わらないと、LIXIL」を打ち出し、年功序列から実力主義への転換を示した。外部環境に左右されることなく持続的に成長できる組織や働き方、それを支えるシステムの構築は急務だった。

 2018年、LIXILは、社内SNSとしてFacebook(現META)が提供する「Workplace」を導入。部門や役職を問わず、全従業員がフラットにコミュニケーションできる場を作った。岩崎さんは、「Workplaceが社内のいろんな壁を取り払ってくれていたからこそ、ノーコード開発もここまでスケールできた」と語る。