「どうせやるなら大胆に」役員全員がアプリを作ることになった

 プロジェクトは、2021年2月に始まった。RPAによる定型業務の自動化、一部で始まったローコード開発など、デジタル施策が一定の成果を上げる中、次のステップとして、LIXILのカルチャーを根本から変えるような踏み込んだ施策が求められた。

 岩崎さんらが、ノーコード開発による「アプリ開発の民主化」を提案すると、CEOの瀬戸欣哉さんはすぐに勝ち筋が見えた様子。「どうせやるからには大胆に」。そう言って、けしかけてくれたという。

 2021年7月、役員幹部向けのオンライン会議で、瀬戸さんから突然ある宿題が発表された。

「LIXILの未来を担うリーダーである皆さんは、デジタルを避けては通れません。それから、英語に躊躇(ちゅうちょ)していては、グローバル企業のリーダーであり続けることはできません。デジタルと英語、この2つは必須のスキルです。皆さんには、これからアプリを作ってもらいます」

 その場にいた全員が息をのんだ。ほとんどの役員が、アプリ開発など全く経験がなかったのだ。

「そんなむちゃな」……裏では、岩崎さんに助けを求めるチャットが飛び交った。「皆さん安心してください。頼れるサポーターを用意していますので」。実は先行して、各部門からITが好きな若手を集め、「チャンピオン」と称してコミュニティ化し、Google AppSheetの集中トレーニングを行っていたのだ。

「チャンピオンのメンバーには、『役員から質問を受けてもいいが、アプリを作るところは一切手伝ってはならぬ』と伝えていました。僕たちがやりたかったのは、役員自らアプリを作り、『自分でできるんだ』と実感してもらうこと。これがブレイクスルーになるという確信があったので、そのための準備に最もパワーをかけました」(岩崎さん)