Google AppSheetは「できる人発見機」

 勝算はあった。さまざまな拠点で、思いがけずダイヤの原石に出くわすことがあったのだ。あるとき、工場内で稼働するシステムの左上に、「Microsoft Excel」の文字を見つけてのけぞった。

「ちょっと待て、これマクロで作ったの?」
「はい」
「こんなに本格的なシステムをマクロで作ってしまうなんてすごいじゃないか」
「マクロでやるしかないんです。だって、自分で開発してはいけない(シャドーIT禁止)というルールがあるじゃないですか。(使用が許可されている)マクロでやれるところまでやってみました」

「磨けば光る人材が、社内のそこかしこに隠れていたんです。そういう人材を発掘し、評価し、育てていくには、正しい武器を渡さなければなりません。そこで、『Google AppSheetという大きな砂場の中では、ある程度自由にやっていい』というルールに変えました。今回の取り組みにおいてGoogle AppSheetは、『できる人発見機』でもあるんです」(岩崎さん)

Google AppSheetを選んだ三つの理由

 数あるノーコード開発ツールの中で、なぜ、Google AppSheetを選んだのか。一つは、同じくGoogle CloudのBigQueryをベースとしたLIXILのデータ活用基盤との親和性だ。

 二つ目は、実際、簡単にアプリが作れてしまったことだ。文系出身の若手社員に、YouTubeに転がっていたGoogle AppSheetの動画を参考にアプリを作ってもらったところ、なんと1日でできてしまった。他にも数人が試し、同じような結果が得られた。「YouTubeの動画を見ただけで、1日でアプリができた」。この事実は、その後の全社展開を加速させるキャッチコピーとしても効力を発揮した。

 三つ目は、グローバル展開を見据えてのことだ。

「国内の使いやすさだけを考えれば、日本語のツールを選ぶかもしれません。しかし、いずれは海外拠点での展開も考えていました。また、僕らは『グローバル企業に転化できないと、国内ですら生き残れない可能性がある』という危機感を持っています。英語に尻込みしていてはいけませんよね。そこで、英語のGoogle AppSheetを使うことになりました」(岩崎さん)

 やんちゃに見えて、全ての選択に意図がある。数字だけを見てLIXILの取り組みをまねるのは危険だ。