世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授であり、さらに東京大学のグローバルフェローとして活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! WEB限定特別公開の連載第5回です(全7回、毎週日曜日更新予定)。
東大の指導教官に聞いた寓話
【解説コラム】
今回の、ネズミの子と怪物猫の不思議な物語の元は、私がちょうどゲーム理論と出合った大学生の時分、当時の指導教官の1人であった松井彰彦氏に聞いた話です。その時聞いた話は、牧草地に羊が1匹と狼が100匹いるというものでしたが、この物語ではそれをすこしアレンジしました。
物語の中でネズミがたどり着いた結論は、「後ろ向き帰納法」と呼ばれるゲーム理論の行動予測手法によるものです。これは、意思決定をする際には今後起きることを今後意思決定をする人の気持ちになってまず予想して、それから自分の意思決定に立ち返るべし、という予測手法です。
たとえば怪物猫が2匹の場合は、まず寝ている猫1番を猫2番がどう処理するか(=今後起きること)を分析してから、それから猫1番の意思決定問題を考えます。猫が3匹のときは、まず猫3番の気持ちになって彼の意思決定を分析し、それから猫2番の意思決定を分析し、最後に猫1番の意思決定を分析します。
時間の流れる方向とは「逆向き」に予測
このように時間の流れる方向(猫1番→猫2番→猫3番)とは逆向きの順番(猫3番→猫2番→猫1番)で予測をするので、後ろ向き帰納法という名前がついているのです。
この手法を寓話化したものがネズミと猫(もしくは羊と狼)の話です。この寓話は、後ろ向き帰納法を勉強するための頭の体操というだけではなく、その手法が時として非現実的な予測をもたらすことを示唆しています。だって、猫の数が100匹から99匹に変わったからといってネズミの運命が変わるなんて、妥当な予測と言えますか?
「市場参入」の分析などで役に立つ
後ろ向き帰納法は非現実的な予測をもたらすこともありますが、多くの場合は有用です。たとえば、猫が2匹しかいなかったら、やはり猫1番は後ろ向き帰納法通りに考えてネズミを食べるのを我慢しそうですよね。実際、後ろ向き帰納法は経済学の分析でよく使われます。
たとえば市場に参入した後にどのような競争が起こるか(=今後起きること)を予想してからそもそも参入するかどうかを決める、とか、交渉で強気の提案をした後の相手の反応と弱気の提案をした後の反応(=今後起きること)をそれぞれ予想してから、今どのような提案をするかを考える、とかいった具合です。
ところで、羊と狼の話の出典を松井氏に確認したところ、不明とのこと。誰が言い出したか分からない、ゲーム理論界隈では古くから言い伝えられている話、ということのようです。
(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)
鎌田雄一郎(かまだ・ゆういちろう)
1985年神奈川県生まれ。2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『
16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)、『
雷神と心が読めるヘンなタネ こどものためのゲーム理論』(第44回サントリー学芸賞受賞作、河出書房新社)がある。
「社会」で、考え悩むあなたへ――著者より
ゲーム理論は、経済問題、社会問題、ビジネス、そして人間関係、全ての局面において我々に示唆を与えてくれます。
むしろ、それらの局面においてゲーム理論を知らないのは、羅針盤なしに航海に乗り出すようなものです。実際、ゲーム理論は大学で教えられる経済学の中で最も重要であると言っても過言ではないでしょう。
どの経済理論も多かれ少なかれ、ゲーム理論の思考法に依拠しているからです。そんなゲーム理論、「難しそう」とか、「聞いたことはあるけれど、いったい何なのかよく分からない」とか、思われている方は多いのではないでしょうか。
この本を手に取られた方には、「ゲーム理論は、いつかは勉強したいと思っていたけれど、何から手をつけていいのか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。
私もゲーム理論家として情報発信をしていく中で、「難しいことはさておいて、ゲーム理論をまずは大ざっぱに理解したい」「思考のセンスを磨きたい」という要望に多く出合ってきました。また、世の中の社会問題や身近な人間関係のこじれを見るにつけ、「ゲーム理論の考え方を少しでも身につけていれば、もっと状況をよくできるのにな」と思うことが多々ありました。
そこで、どうやったらより多くの方がゲーム理論を学ぶきっかけを作れるか、そしてどうしたらゲーム理論のエッセンスを効果的に伝えられるか、この本は、社会の中の私たちが考え悩むことをゲーム理論がどのように解決するのか、はたまたしないのか、を6つの物語(と、1つの小話)を通して描いたものです。
初めに重要なお断りですが、この本は、ゲーム理論の教科書ではありません。その証拠に、「ゲーム理論」という言葉も、小難しい専門用語も、物語の中には一切出てきません。ネズミの親子が人様の家に上がり込んだり、昼寝をしたり、そんなことくらいしか起きません。
でもそんなことを通じて、ゲーム理論の思考法――つまり、「社会の中で考える」ためのセンス――を読者のあなたに身につけてもらえる、それがこの本なのです。
具体的には、この本の6.5個の物語の舞台、およびそこで扱われるゲーム理論のトピックを選定するにあたり、以下の4つの点を心がけました。
1.「社会の中で考える」にあたって、他の人が何をするか、何を考えているかに思いを馳せることは重要です。この点が物語のカギになるような舞台設定・トピック選定をしました。
2.ゲーム理論家たちのおそらく大部分が「ゲーム理論」という学問において重要と見なすであろうトピックのみを扱うことにしました。
3.ゲーム理論は経済学・政治学に広く応用されます。物語で扱うトピックは、理論的に重要なだけではなく、応用上も重要なものを選びました。たとえば第1章は町内会での投票の物語ですが、ゲーム理論が応用された投票の理論は、政治学での分析に多大な影響を及ぼしています。
4.ゲーム理論のトピックのエッセンスが効果的に伝わるように、国の政策や税金などが関わる「大きな社会」ではなく、身近に分かりやすい「小さな社会」の舞台設定を採ることにしました。といっても、小さな社会でも大きな社会でも、必要とされる思考法に何ら違いはありませんので、ご心配なく。
物語の中には、頭がこんがらがってしまうようなことを言う登場人(動)物も出てくるかもしれません。もし頭がこんがらがったなと思ったら、ちょっと飛ばして読んで、話の全体像をつかんでみてください。
それからコーヒーでも飲んでから、また読み進めると、より理解が深まるかもしれません。そうこうするうちに、ゲーム理論の思考法の数々を、読後あなたが知らず知らずのうちに体得している、これがこの本の目指すところです。(本書の「はじめに」より抜粋)。
■新刊書籍のご案内
大竹文雄氏(大阪大学教授)推薦
「この本は、物語を通じて人の気持ちを理解する国語力と論理的に考える数学力を高めてくれる」
竹内薫氏(サイエンス作家)推薦
「すごい本だ! 数式を全く使わずにゲーム理論の本質をお話に昇華させている」
神取道宏氏(東京大学教授)絶賛
「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」
松井彰彦氏(東京大学教授)推薦
「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」
「ゲーム理論」って、経済学の本やビジネス書でも見かける用語で、とても役に立つらしいけれど、いざ関連書を手にとってみると、難しい。
本書は、「ゲーム理論」をなんとか理解したい、数学的な理論にはついていけないがどのような考え方をする学問なのかを知りたいという、読者の切なる願いに、カリフォルニア大学バークレー校准教授の著者が応えるゲーム理論の超入門書!
社会の「意思決定」と「かけひき」を読み解く、最強の考える道具をあなたに。
ゲーム理論は、経済問題を分析するための数学的理論で、利害関係にある人々が、社会で意思決定をするとどのような結果が起きるかを予測し、社会における意思決定の指針を与えてくれる。
経済学、経営学、政治学、情報科学、生物学、応用数学など非常に多くの分野で応用され、選挙の投票行動など様々な社会問題の分析、新商品の価格設定や、新規市場への参入戦略の決定など、GAFAを筆頭にビジネスの現場でも使われている。
経済学の最重要ジャンルであり、どの経済理論も多かれ少なかれ、ゲーム理論を活用している。本来は高度な数式も多数用いられるゲーム理論ではあるが、本書は、イラストを多数用いたストーリー形式で、やさしく、ゲーム理論の考えかた、物の見方が身につく一冊。
ネズミ親子を主役に、ゲーム理論がどのように社会の問題を解決するのかを6つの物語(と、1つの小話)を通して描く。
【本書の「はじめに」より】
この本は、ゲーム理論の教科書ではありません。その証拠に「ゲーム理論」という言葉も、小難しい専門用語も、物語の中には一切出てきません。ネズミの親子が人様の家に上がり込んだり、昼寝をしたり、そんなことくらいしか起きません。でもそんなことを通じて、ゲーム理論の思考法を読者のあなたに身につけてもらえる本なのです。