世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! WEB限定特別公開の連載第2回です(全7回、毎週日曜日更新予定)。

【マンガでわかるゲーム理論】カリフォルニア大学バークレー校准教授が教える「なぜ人は話し合うのか?」
【マンガでわかるゲーム理論】カリフォルニア大学バークレー校准教授が教える「なぜ人は話し合うのか?」
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お互い何を考えているのかを探り合う

【解説コラム】

 第2章はH氏の歌手プロデュースの話でした。この話の元ネタは、ジョン・ジーナコプロス氏とヘラクリス・ポレマルカキス氏による、1982年の論文です。Journal of Economic Theoryという学術雑誌に紹介されたもので、論文タイトルを “We Can’t Disagree Forever”(訳:『我々は永遠に見立てを違えるということはない』)といいます。

 2人の人間が自分の見立てを伝え合い続けたら果たして合意に至れるのか、という問いを数理分析した論文です。その中で、物語に出てきたような例が出てきます(もちろん、ミスWやミスU、賢者たちは、出てきませんが)。

 たまに研究者仲間の間で「今まで読んだ中でのモスト・フェイバリット・ペーパー(一番好きな論文)は何か」という話になるのですが、私はそう聞かれるとこの論文を挙げます。まだ日本にいた大学生の頃、横浜元町のお気に入りのカフェでこの論文を食い入るように読んだのを、今でもつい昨日のことのように覚えています。

 この論文には、H氏の物語の元になった例の他にもいろいろと面白い例が出てきて、人と人とがお互い何を考えているかを探り合うゲーム理論の醍醐味が詰まっていたのです。

知識のモデル

 この物語に出てくるような話をするにあたって使われる数学モデルは「知識のモデル」と呼ばれています。人によって社会で何が起きているかについて考えていることが違い、その中で人々がお互いの考えていることを予想し合う、という状況を数理的に表すモデルです。

 2005年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・オーマン氏の1976年の論文“Agreeing to Disagree”(訳:『同意しないことに同意』)(Annals of Statisticsに掲載)が端緒となって今日まで発展してきている、ゲーム理論の根幹を成すものです。

 ちなみに先出の論文の問いである「2人の人間が自分の見立てを伝え合い続けたら果たして合意に至れるのか」に対する答えは、論文タイトルにあるように、イエスです。でもこの答えの解釈には注意が必要です。

情報をシェアすることは大事

 まずこの答えを導くために、「見立て」とは何か、それを「伝え合い続ける」とは何か、そして「合意に至る」とはどういう意味か、をそれぞれ数学的に定義してやる必要があります。大ざっぱに言うと、毎日毎日「五分五分」「八割がた合っている」などの確率予想のみを2人が言い合い続けると、その確率予想が両者でそのうち一致する、というのが論文の証明したことです。

 2人の賢者が「五分五分」という確率予想で一致を見る、というのは、論文が証明したことと整合的です。もちろん物語の肝は、もし見立ての一致が見られても、実はもっと情報をシェアすればそれを変えられるかもしれませんよ、ということだったわけですけれども。

(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)