世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授として活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! WEB限定特別公開の連載第3回です(全7回、毎週日曜日更新予定)。
「価格競争」を分析する
【解説コラム】
Eケーキの物語、いかがでしたか? この話には、ゲーム理論のいくつかの基本概念が挿入されています。
まず、価格競争の末に値段が材料費まで下がる、というのは遥か昔1883年に数学者のジョセフ・ベルトラン氏が、当時既に知られていた別の企業間競争モデルに異を唱える形で提唱した理論です(Journal des Savantsという学術雑誌の、“Book Review of Theorie Mathematique de la Richesse Sociale and of Recherches sur les Principes Mathematiques de la Theorie des Richesses”(訳:『「社会厚生の数学的理論」と「厚生の理論の数学的原則に関する研究」の書評』)という論文に、この理論が展開されています)。
このような価格競争は、提唱者の名前をとって「ベルトラン競争」と呼ばれています。この名前は、大学で経済学をかじったことのある読者の方なら聞いたことがあるかもしれませんね。
「繰り返しゲーム」という理論
もちろん、値段が本当に材料費まで下がるということは現実的にはあまり考えられません。
この現実とベルトランの理論との乖離を埋めるのがその後の研究、たとえば「10円高くてもEさんの店から買うかもしれない」場合(これを、製品差別化がある場合、と言います)に価格競争がどう影響されるかという話や、「もし自分が価格を下げたら相手も下げるかもしれないからやっぱり下げないでおく」という話です。
特にこの後者の「後の価格競争を恐れて価格を高く保っておく」というのは、現在でも活発に研究がなされている「繰り返しゲーム」と呼ばれる理論によるものです。
相互関係は何度も続く
この理論は、1971年にジェームズ・フリードマン氏がReview of Economic Studies誌に出版した“A Non-Cooperative Equilibrium for Supergames”(訳:『スーパーゲームの非協力的均衡』)という論文が始まりです(「スーパーゲーム」というのは専門用語なのですが、ここでは「長期的関係」という意味です)。
人々の社会における相互関係は一度きりではなく、何度も続きます。友人同士の協力関係でもそうですし、敵対する企業同士の関係でもそうです。こういった状況を数理的に分析するのが「繰り返しゲーム」の理論なのです。
日本人研究者が活躍
実はこの理論の研究では日本人研究者が多くフロンティアで活躍しています。たとえば私の論文共著者でもある神取道宏氏や菅谷拓生氏は、今でもこのテーマの最前線で鎬を削っています。
ちなみに、論文タイトルには「非協力的均衡」とありますが、論文自体は、長期的関係において協力関係が築かれる可能性のあることを証明しています。
各人がお互い自分の利益のみを追求したとしても、相手の反応を伺いながら行動すると協力関係が築ける可能性があるので、「非協力的」という名前がついているわけです。
(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)
鎌田雄一郎(かまだ・ゆういちろう)
1985年神奈川県生まれ。2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『
16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)、『
雷神と心が読めるヘンなタネ こどものためのゲーム理論』(第44回サントリー学芸賞受賞作、河出書房新社)がある。
「社会」で、考え悩むあなたへ――著者より
ゲーム理論は、経済問題、社会問題、ビジネス、そして人間関係、全ての局面において我々に示唆を与えてくれます。
むしろ、それらの局面においてゲーム理論を知らないのは、羅針盤なしに航海に乗り出すようなものです。実際、ゲーム理論は大学で教えられる経済学の中で最も重要であると言っても過言ではないでしょう。
どの経済理論も多かれ少なかれ、ゲーム理論の思考法に依拠しているからです。そんなゲーム理論、「難しそう」とか、「聞いたことはあるけれど、いったい何なのかよく分からない」とか、思われている方は多いのではないでしょうか。
この本を手に取られた方には、「ゲーム理論は、いつかは勉強したいと思っていたけれど、何から手をつけていいのか分からない」という方もいらっしゃるかもしれません。
私もゲーム理論家として情報発信をしていく中で、「難しいことはさておいて、ゲーム理論をまずは大ざっぱに理解したい」「思考のセンスを磨きたい」という要望に多く出合ってきました。また、世の中の社会問題や身近な人間関係のこじれを見るにつけ、「ゲーム理論の考え方を少しでも身につけていれば、もっと状況をよくできるのにな」と思うことが多々ありました。
そこで、どうやったらより多くの方がゲーム理論を学ぶきっかけを作れるか、そしてどうしたらゲーム理論のエッセンスを効果的に伝えられるか、この本は、社会の中の私たちが考え悩むことをゲーム理論がどのように解決するのか、はたまたしないのか、を6つの物語(と、1つの小話)を通して描いたものです。
初めに重要なお断りですが、この本は、ゲーム理論の教科書ではありません。その証拠に、「ゲーム理論」という言葉も、小難しい専門用語も、物語の中には一切出てきません。ネズミの親子が人様の家に上がり込んだり、昼寝をしたり、そんなことくらいしか起きません。
でもそんなことを通じて、ゲーム理論の思考法――つまり、「社会の中で考える」ためのセンス――を読者のあなたに身につけてもらえる、それがこの本なのです。
具体的には、この本の6.5個の物語の舞台、およびそこで扱われるゲーム理論のトピックを選定するにあたり、以下の4つの点を心がけました。
1.「社会の中で考える」にあたって、他の人が何をするか、何を考えているかに思いを馳せることは重要です。この点が物語のカギになるような舞台設定・トピック選定をしました。
2.ゲーム理論家たちのおそらく大部分が「ゲーム理論」という学問において重要と見なすであろうトピックのみを扱うことにしました。
3.ゲーム理論は経済学・政治学に広く応用されます。物語で扱うトピックは、理論的に重要なだけではなく、応用上も重要なものを選びました。たとえば第1章は町内会での投票の物語ですが、ゲーム理論が応用された投票の理論は、政治学での分析に多大な影響を及ぼしています。
4.ゲーム理論のトピックのエッセンスが効果的に伝わるように、国の政策や税金などが関わる「大きな社会」ではなく、身近に分かりやすい「小さな社会」の舞台設定を採ることにしました。といっても、小さな社会でも大きな社会でも、必要とされる思考法に何ら違いはありませんので、ご心配なく。
物語の中には、頭がこんがらがってしまうようなことを言う登場人(動)物も出てくるかもしれません。もし頭がこんがらがったなと思ったら、ちょっと飛ばして読んで、話の全体像をつかんでみてください。
それからコーヒーでも飲んでから、また読み進めると、より理解が深まるかもしれません。そうこうするうちに、ゲーム理論の思考法の数々を、読後あなたが知らず知らずのうちに体得している、これがこの本の目指すところです。(本書の「はじめに」より抜粋)。
■新刊書籍のご案内
大竹文雄氏(大阪大学教授)推薦
「この本は、物語を通じて人の気持ちを理解する国語力と論理的に考える数学力を高めてくれる」
竹内薫氏(サイエンス作家)推薦
「すごい本だ! 数式を全く使わずにゲーム理論の本質をお話に昇華させている」
神取道宏氏(東京大学教授)絶賛
「若き天才が先端的な研究成果を分かりやすく紹介した全く新しいスタイルの入門書!」
松井彰彦氏(東京大学教授)推薦
「あの人の気持ちをもっとわかりたい。そんなあなたへの贈りもの。」
「ゲーム理論」って、経済学の本やビジネス書でも見かける用語で、とても役に立つらしいけれど、いざ関連書を手にとってみると、難しい。
本書は、「ゲーム理論」をなんとか理解したい、数学的な理論にはついていけないがどのような考え方をする学問なのかを知りたいという、読者の切なる願いに、カリフォルニア大学バークレー校准教授の著者が応えるゲーム理論の超入門書!
社会の「意思決定」と「かけひき」を読み解く、最強の考える道具をあなたに。
ゲーム理論は、経済問題を分析するための数学的理論で、利害関係にある人々が、社会で意思決定をするとどのような結果が起きるかを予測し、社会における意思決定の指針を与えてくれる。
経済学、経営学、政治学、情報科学、生物学、応用数学など非常に多くの分野で応用され、選挙の投票行動など様々な社会問題の分析、新商品の価格設定や、新規市場への参入戦略の決定など、GAFAを筆頭にビジネスの現場でも使われている。
経済学の最重要ジャンルであり、どの経済理論も多かれ少なかれ、ゲーム理論を活用している。本来は高度な数式も多数用いられるゲーム理論ではあるが、本書は、イラストを多数用いたストーリー形式で、やさしく、ゲーム理論の考えかた、物の見方が身につく一冊。
ネズミ親子を主役に、ゲーム理論がどのように社会の問題を解決するのかを6つの物語(と、1つの小話)を通して描く。
【本書の「はじめに」より】
この本は、ゲーム理論の教科書ではありません。その証拠に「ゲーム理論」という言葉も、小難しい専門用語も、物語の中には一切出てきません。ネズミの親子が人様の家に上がり込んだり、昼寝をしたり、そんなことくらいしか起きません。でもそんなことを通じて、ゲーム理論の思考法を読者のあなたに身につけてもらえる本なのです。