世界的に有名な企業家や研究者を数多く輩出している米国・カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院。同校の准教授であり、さらに東京大学のグローバルフェローとして活躍する経済学者・鎌田雄一郎氏の『16歳からのはじめてのゲーム理論』は、著者の専門である「ゲーム理論」の本質をネズミの親子のストーリーで理解できる画期的な一冊だ。
ゲーム理論は、社会で人や組織がどのような意思決定をするかを予測する理論で、ビジネスの戦略決定や政治の分析など多分野で応用される。そのエッセンスは、多くのビジネスパーソンにも役に立つものである。本書は、各紙(日経、毎日、朝日)で書評が相次ぎ、竹内薫氏(サイエンス作家)、大竹文雄氏(大阪大学教授)、神取道宏氏(東京大学教授)、松井彰彦氏(東京大学教授)から絶賛されている。その内容を人気漫画家の光用千春さんがマンガ化! WEB限定特別公開の連載第4回です(全7回、毎週日曜日更新予定)。

【マンガ】東大グローバルフェローが教える「スピード違反」の取り締まりは、なぜランダムが有効なのか?
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スピード違反と「ネズミ捕り問題」

【解説コラム】

 第4章では、O交番の若い巡査の元に、スピード違反で捕まったNさんが苦情を言いにやって来ました。

 そこでネズミたちは、2つの「ネズミ捕り問題」が実は同じような構造をしていることに気づきます。

 この共通する構造は、ゲーム理論で「混合戦略均衡」と呼ばれる概念に依拠するものです。混合戦略均衡というのは少しややこしい概念なのですが、大ざっぱに言うと、こんな感じです。

「社会の中で、人々はそれぞれ異なる行動をとるかもしれない。しかしだからといって、人々が常に行動を変えて社会が混沌とし続けるとは限らない。異なる人同士の行動はそれぞれ違えど、各人の行動が変わらずに落ち着く状態というのは必ずある。そしてそれは、誰も自分の行動を変えても得をしないような状態である」

天才数学者のアイディア

 たとえば町にやって来るネズミも来ないネズミもいるわけですが、そうした異なる行動をとるネズミの割合が落ち着く状態というのがあって、そこでは、どのネズミも自分の行動を変えたいとは思っていない、ということです。

 おそらく混合戦略均衡なる概念を初めて考え付いたのは(現代型コンピュータや原子爆弾の開発において最も重要な役割を果たしたと言われる)ジョン・フォン・ノイマン氏という天才数学者で、このアイディアは1928年のMathematische Annalenという学術雑誌に“Zur Theorie der Gesellschaftsspiele”(訳:『ボードゲームの理論について』)という名の論文で登場します。

フラフラするネズミも大切

 フォン・ノイマン氏は、この考え方をたとえばジャンケンやそれこそボードゲームのように、勝者の裏には必ず敗者がいるような限定的な社会状況(「ゼロ・サム・ゲーム」と呼ばれます)にしか応用しませんでした。

 これが、(協力しあって皆が勝者になる可能性なども許す)より一般的な状況の分析にも応用可能であることを発見したのが、1950年のジョン・ナッシュ氏による、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに掲載された“Equilibrium Points in n-Person Games”(訳:『n人ゲームの均衡点』)という論文です。

 ナッシュ氏はその半生が『ビューティフル・マインド』という映画になったくらいの有名人ですので、皆さんも名前くらいは聞いたことがあるかもしれませんね。

 それから、フラフラネズミの話が出てきました。こういうフラフラキャラがいるおかげで社会がうまいバランスにたどり着く、という状況を扱う理論は、「進化ゲーム理論」や「ゲームにおける学習の理論」と呼ばれています。

生物学にも応用

 進化ゲーム理論は生物学にも広く応用されていて、ちょうど「フラフラネズミ」が、生物学でいうところの「突然変異」に対応しているという具合です。

 社会における人間行動を分析する文脈では、社会の皆が普段は周りの状況に頑張って適応しようとするが、たまには試行錯誤してより良い行動パターンを見つけようとする(つまり、フラフラする)、というわりと尤もらしい状況の分析に、「進化ゲーム理論」およびそれの発展型である「ゲームにおける学習の理論」が役立ちます。

人間の行動パターンの傾向

 そのような状況で、結局社会の人々はどのような行動パターンを採ることに落ち着くか、ということを予測するのです。

 諸々の条件のもとでは、社会における人間の行動パターンは混合戦略均衡で予測されるものに落ち着く、ということが知られています。

(本書は『16歳からのはじめてのゲーム理論』の内容を漫画化したものです。)