先回りの対応は、まだ残っているメンバーやセミナー参加者、取引先の企業、学校施設に対して、いわれのない攻撃が行われていることの情報共有と潔白の説明でした。それは迅速に行われ、仕事と信頼の喪失には歯止めがかかりました。またある大学において、保護者を名乗る対象者らしき人物から、川中さんへ向けた誹謗中傷の言葉とともに、「講師の任を解くように!」と激しい口調で電話があったことを聞きました。詳しくその内容や電話の主の特徴を聞くうちに、ある人物が想起されたそうです。話し方の特徴や方言が大山氏に酷似していたのです。

 一方、情報収集の方でも成果がありました。対象者が攻撃内容に賛同しそうな人に向けて呼びかけたり、交流したりするためのスレッドを発見したのです。そこでは川中さんに対するでっち上げ情報のやり取りが愉快犯的に行われていました。情報ソースはこのスレッドのようでした。このスレッドを隅々まで見ていくと、対象者がスレッドの参加者と直接会っているようでした。実際に会うやり取りに関しては、慎重を期してか特定のSNSの特定のアカウントでのみ受け付けているようでした。

対象者と接触するための作戦
1カ月におよぶやり取りを続け…

 私は川中さんやメンバーと協議を続け、対象者と接触するための作戦を練り上げました。その作戦は対象者とSNSで接触し対面する機会を作り、対象者の身元を割り出すというものでした。そのやりとりの担当は、信頼でき、川中さん主催のセミナー内容に詳しく、大山氏と直接面識がない原田さんにお願いすることになりました。

 そうして、交流スレッドに原田さんのアカウントを作り参加。でっち上げられている不満点を把握し、対象者に興味を持ってもらえるよう、川中さんへの不満なども書き込んだ上で、やりとりの矛盾や対象者に警戒心を起こさせないよう、細心の注意を払った文章力が必要でした。1カ月間、みんなで知恵を出し合い、慎重の上にも慎重を重ねたやり取りによって、対象者と都内のとあるホテルのラウンジで1週間後に対面する約束を取りつけました。

 このチャンスを逃すことは許されないため、対面の前日まで対象者とのやり取りはさらに慎重に行われ、無事に当日を迎えることができました。

 依頼者が望む成果を出すための私たち探偵の取り組みは、他の仕事と全く同様に準備・段取りが8割、本番・作業が2割と認識しています。

 これで準備・段取りが終わり、後は本番・作業としての張り込みと尾行です。