プレイステーションの父と呼ばれる久夛良木健氏は、世界のギークからビジョナリー(未来を予見できる人)と呼ばれ続けている。そんな久夛良木氏が今年、近畿大学情報学部長に就任。若い世代にイノベーションの最先端を手ほどきする特別講義が、ビジネスパーソンにも非常に役に立つ内容だ。今回の「久夛良木ゼミ」の実況中継は、AIについて。「電気や火よりもすごいイノベーション」だなんて、どういうこと?
久夛良木健氏が語る
すごいイノベーションの正体
今日はAI、人工知能について話を進めていきましょう。みなさん(近畿大学情報学部・久夛良木ゼミの受講生)から、次のような質問が届いています。
「AIはいつか感情や意思を持つようになるのでしょうか」
「人々の行動をAIで完全に監視する日なんて来るのでしょうか」
「AIに人間の脳をそのまま搭載できるようになるでしょうか」……
AIって聞くと、みなさんそれぞれに夢が広がりますよね。このままAIが進化していくと、近い将来には何でもできるようになるのではないか。そんなふうにも思えてしまいます。でもAIが現在のレベルに達するまでには、多くの研究者がチャレンジしたものの思うような成果を上げられず、幾度となく深い失望を繰り返すという状況が近年まで続いてきました。
AIという言葉の概念が生まれたのは今から半世紀以上も前の1956年にまでさかのぼります。米ダートマス大学にコンピューターの専門家が集まった会議で、初めて「Artificial intelligence」という言葉が議題に上がったとされています。
当時は巨大なメインフレームコンピューターが稼働を始めた時期で、演算の過程がまだ目に見えるような時代でした。一通りの計算が完了するとプリント紙に音を立てて計算結果が打ち出されるので、まるでコンピューターが時間をかけ何かを考えているようにも思える。そこにロマンを感じ、いつの日かコンピューターという機械に人間の知能が宿るのではないか、と考え始めた人たちがいたわけです。
プログラムによって人類の知能を模倣するAIがいつの日か誕生するかもしれない――とてもロマンチックな発想ですよね。