データがあっても故障の予兆がつかめなければ意味がない。そしてそれは人間が眺めていても分かるものではない。ここで必要になるのがAIの力だ。故障予測AIは改札機から日々出力される稼働データを入力、故障履歴データを出力に設定して機械学習する。

 自動収集したデータは故障予測AIにアップロードされ、AIは例えば「1号機は85%の確率で壊れる」という故障予測を出す。保守作業員は問題の自動改札機をピンポイントに点検するというわけだ。

 ただAIの示す「確率」は、そのままでは根拠の分かりにくいブラックボックスになりがちだ。根拠はよく分からないが、そこそこ確からしいAIの指示通りに作業しても一定の成果は出るかもしれないが、実際に作業する人間を置き去りにしては作業のさらなる高度化、効率化は期待できない。

 そこで故障予測AIでは、故障確率を押し上げた要因を可視化し、箇所別に分析できるようにした。これにより保守作業員が見れば、自動改札機のどこで何が起きているのかが一目瞭然な生きたデータになったのである。

 2020年6月から1年間、神戸エリア約300台で行った長期試験では、CBM化によって点検回数は約3割減少し、故障回数も約2割減少した。これを受けて2021年から全エリアの自動改札機と、類似の構造を持つ券売機、精算機へのCBM導入を決定。AI故障予測モデルの外部への販売に着手した。既にJR九州が券売機CBMの試験運用を実施するなど、「アウトバウンド」は順調に進みつつある。

セキュリティーカメラを使った
行動推定AIの外販も検討

 続いては、JR西日本が自社管内に約7500台設置しているセキュリティーカメラを有効活用しようという取り組みだ。セキュリティーカメラはリアルタイムの監視も可能だが、基本的には録画データを犯罪捜査などで事後的に検証するためのものだ。

 しかし近年多発する駅構内、車内での傷害事件への迅速な対応や、身体障害者や視覚障害者など交通弱者の安全確保が求められる中で、限られた駅員が全ての箇所で目を光らせるというのは非現実的だ。そこでAIがカメラ映像をリアルタイムに解析することで、異常を早期に検知しようという試みだ。

 実際の映像を元に、人を認識する「骨格抽出」と物を認識する「物体検出」をAIに学習させ、両者を組み合わせた「行動推定AI」として解析する。人と物の動きをそれぞれ認識するので、車いすに乗った旅客や白杖(はくじょう)を持った視覚障害者の案内、あるいはナイフの所持や立ち入り禁止エリアへの侵入を検知して迅速に対応することが可能だ。

 人が行き交う駅構内の映像で学習させただけに、多人数を広角で撮影した映像であっても高精度で検知できるといい、これまで人海戦術で行っていた駅の流動調査への導入も検討している。またバスの乗車人員のカウント、工場の安全管理や生産ラインの検品など他業種からも問い合わせが寄せられているそうだ。

 とはいえ、こうしたAIはJR西日本以外にも開発されているのではないか。むしろ後発の部類に入るのではないか、と疑問に思う。井上課長に聞いてみると「世の中にごまんとあります」とした上で、「我々の強みは自社の駅でセキュリティーカメラを経由してデータセットを持っていることです」と言う。

 つまりAIはそれ自体では役に立たず、使用環境で学習させなければならないが、メーカーは現場のデータを持ち得ない。ユーザーからデータの提供を受けたとしても、現場のオペレーションを理解していない担当者が作ったAIは、要件を満たさなかったり、精度が低下したりするといった問題がある。

 その点、JR西日本の監視カメラAIは要件定義からデータ収集、アノテーション(学習)、モデル構築、精度検証まで一貫して内製している。既存のセキュリティカメラに接続するたけで、そのまま使えるAIとして他の鉄道事業者に売り込んでいきたい考えだ。