2005年に起きた福知山線脱線事故時、社員に対する制裁的な日勤教育や、秒単位の厳しい運行管理が運転士の焦りにつながり、事故の遠因となったと批判を受けた。その反省はどこまで生かされているのだろうか2005年に起きた福知山線脱線事故時、社員に対する制裁的な日勤教育や、秒単位の厳しい運行管理が運転士の焦りにつながり、事故の遠因となったと批判を受けた。その反省はどこまで生かされているのだろうか Photo:JIJI

奇々怪々な出来事としか言いようがない。JR西日本岡山支社の男性運転士が1分間の未払い賃金56円の支払いを求めてJR西日本を訴えていると、11月6日付の読売新聞が伝えた。一体どういうことなのか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

乗り継ぎが遅れた2分を
無価値労働として賃金カット

 11月6日付の読売新聞と運転士が所属するJR西日本労働組合(JR西労)の機関紙によれば、事の起こりは2020年6月18日朝。岡山駅で回送列車を車庫まで移動する際、当該運転士が列車の到着ホームを間違えたために引き継ぎ作業が2分遅れ、発車も1分遅れた。

 遅れが生じたのは回送列車1本のみで、営業列車には影響はなかったが、JR西日本は乗り継ぎが遅れた2分間は労働実態がない「無価値労働」だとして、運転士の給与の2分間分85円をカットした。

 運転士は「間違えた事実はあり反省しているが、労働していたにもかかわらず賃金カットはおかしい」として、岡山労働基準監督署に相談。労基署はJR西日本に対して「労働実態があり賃金カットは認められない」との是正勧告を出したが、同社は「乗り継ぎが遅れた2分間の無価値労働」から「列車の発車が遅れた1分間の債務不履行」に主張を改め、賃金カットは撤回しなかった。

 これを受けて運転士は今年3月31日、カットされた賃金と割り増し分の残業代を合わせた56円に、精神的苦痛を受けた慰謝料を加えた計220万56円の支払いを求め、岡山地方裁判所に提訴した。JR西労によれば、既に口頭弁論が2回、オンラインでの進行協議が1回行われており、事実関係の争いはないことから、次回の口頭弁論で結審する見込みだという。