今からちょうど10年前の2012年8月、ソニーは収益力の低下に直面した。背景には、1990年代以降の失敗があった。最も影響が大きかったのが、コングロマリット化戦略だ。ソニーはモノをつくるのか、コンテンツを生み出すのか、それとも金融で生きていくか、本業が分からなくなってしまった。12年以降、ソニーは選択と集中を進め、モノづくりの原点に回帰している。ただし、かつてのソニーには、今日とは異なるアニマルスピリットがあふれていた。ソニーのDNAは、世界をあっと驚かせる、全くもって新しいモノを世界に提供することだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
PlayStation5やゲームソフトの販売が減少
ソニーグループ(ソニー)の成長ペースに鈍化の兆しが出始めた。2012年以降、同社は大規模なリストラを実行する一方、CMOSイメージセンサなどモノづくりの力を磨いた。スマートフォンの世界的な普及を追い風にして業績が回復したことで、得られた資金をゲームやデジタル家電分野に再配分し、業績を拡大させた。
しかし最近、世界経済の後退懸念の高まりによって「PlayStation5」(PS5)やゲームソフトなどの販売が減少している。
今後、ソニーに期待したいのは、まだ誰も思い付かない新しいモノ(最終製品)を世界に、一番先に届けることだ。創業以来、ソニーは、世界をあっと驚かせる新しいモノを創造し、高い成長を遂げた。ソニーの遺伝子は、今はまだない新しいモノの創造にある。
世界経済の先行き不透明感が高まり、米国ではIT先端分野で採用を抑制したり、人員を削減したりする企業が出始めた。世界のライバル企業が経営の守りを重視し始めた環境は、ソニーが新しいモノの実現に向けた取り組みを強化するチャンスといえる。それが中長期的なソニーの成長だけでなく、わが国経済のダイナミズムに与える影響は大きい。