依存度を測るための手法として、本書は「ヤングの診断基準」を紹介している。

 この基準は米国の心理学者であるキンバリー・ヤング氏が1996年に発表したもので、社会調査などで広く活用されている。具体的には、以下の3項目を含む全8項目から構成される。

・インターネット使用時間をコントロールしようとして何度も努力し、失敗した経験があるか
・インターネット使用をやめようとしたとき、気分が落ち着かなかったり、意気消沈したりするか
・仕事、学校における大切な人間関係を、インターネットが原因でなくしてしまいそうになったことがあるか

 全8項目のうち、5項目以上が当てはまれば「依存」とするのがヤング氏の診断基準だ。

 スマホが発明される前に考案された基準であり、正確には「ネット依存度」を測るためのものだが、「現代人とスマホの関係」に置き換えても十分に通用する。「自分はいくつか当てはまった」という人もいるかもしれない。

ネトゲで家庭を壊す「廃神」
ゲームにハマった老父も

 ただし本書では、スマホやネットへの依存度が極めて高い人は自らを正当化しがちであり、自省的な質問に答えられない可能性に言及。より正確な判定を行う上では、「ヤングの診断基準」にも議論の余地があると指摘している。

 例えば、ネットゲームにのめり込んで家庭を壊した人が、所属するゲーム関連のコミュニティー内で「廃神」(「廃人」をもじったネットスラング)と呼ばれて尊敬され、本人が相当な達成感を持っている場合もあるというから恐ろしい。

 ヤング氏の診断基準に加え、メディアではあまり語られない「老人のスマホ依存」を克明に描いているのも本書の特徴だ。

 著者の石川氏が取材したある女性は、70代の父親に「親孝行」のつもりでスマホを買い与えた。すると、パチンコや麻雀などのゲームにのめり込み、要介護認定を受けていた妻(取材対象者の母親)の世話を後回しにしてプレイを続けた。

 父親は自らの食事を抜いてゲームをするほどのハマりようになってしまい、母親はデイサービスへの通所を余儀なくされた。父親のスマホには見知らぬ女性から「会いたい」といったメッセージが届いており、出会い系サイトに誘導された形跡もあったそうだ。

 良かれと思ってプレゼントしたスマホが、親の人生を狂わせる危険性もあることを思い知らされる。同書はこの他、動画広告などを視聴すると、買い物で使えるポイントがもらえる「ポイントサイト」に熱中した専業主婦の例なども紹介している。

 子どものスマホ利用に警鐘を鳴らす報道は多いが、本書は大人の周囲にも「落とし穴」が潜んでいることを教えてくれる。スマホやネットとの向き合い方を再考させられる一冊だ。