ただし現時点では、「スマホ依存」「ネット依存」はWHO(世界保健機関)による国際疾病分類(ICD-11)で疾病として認定されていない。WHOによって病気だと認められているのは、これら2つの下位項目である「ゲーム障害」である。
ゲームの長時間利用が仕事や家族関係に悪影響を及ぼしており、この状態が12カ月以上にわたって続く人などは、精神疾患の可能性があるという。
そうした「ゲーム障害」の脅威と治療法を、医学的な見地から紹介しているのが『スマホゲーム依存症』(樋口進著、内外出版社)だ。
著者の樋口氏は精神科医であり、2011年に日本初の「インターネット依存専門治療外来」を開設した国立病院機構 久里浜医療センターの名誉院長を務めている(執筆時の肩書は院長)。
各種ゲームが原因で、心身の不調に陥った患者を治療してきた樋口氏が「多くの人を短期間で依存に引き込む可能性のある、社会的リスク」だと警鐘を鳴らすのは、やはりスマホゲームである。
「ゲーム依存」患者の
具体的な治療法とは?
樋口氏は、数あるスマホゲームの仕組みの中でも、特に危険なのは「ガチャ」だと指摘している。現実世界のカプセルトイのように、「課金」することでキャラクターやアイテムをランダムで入手できる仕掛けである。
ガチャの「次は何が出てくるんだろう」というワクワク感は、「パチンコやパチスロなどがもたらすスリルと非常によく似ている」と樋口氏は説く。
実際にやみつきになり、親のクレジットカードを勝手に使って高額な課金をした学生や、年収の約2倍の金額を投じた社会人が、周囲の勧めなどで久里浜医療センターを訪れているという。
そこで久里浜医療センターでは、軽度のゲーム依存患者に対して、医師やスタッフを交えてバドミントンや卓球などの簡単な運動に加え、雑談やディスカッションなど、対話による治療を実施している。
また、「プレイ時間を書き出す」「日常生活にどのようなマイナスが生じたかを考える」といった認知行動療法も同時並行で行っている。
それでも治療が難しい人には2カ月程度入院してもらい、ネットがない環境下で規則正しい食事や運動、認知行動療法などを行うこともある(治療内容はいずれも執筆当時のもの)。
「治療や入院なんて大げさだ」と思う人がいるかもしれない。だが本書は、スマホゲームの過剰利用によって健康を害した人は、自分の力だけでは立ち直れないという現実を教えてくれる。
「プレイ時間を書き出す」といった手法は、スマホゲームのしすぎが気になる一般ユーザーの参考にもなる。ゲーム障害の実態を学べるだけでなく、時間を有効活用するヒントも得られる一冊だ。