変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

【コンサルが解説】なぜ、「炎上しているプロジェクト」には、安易に人員を追加してはいけないのか?Photo: Adobe Stock

人員を追加しても、プロジェクトは効率化しない

 下図に示すように、システム開発の世界では10人が10か月を要するプロジェクトを100人月と表現しますが、このプロジェクトを20人体制にしたからといって納期を5か月に短縮することはできません。

 私は、過去に複数の炎上しているシステム開発プロジェクトの立て直しに従事したことがありますが、まず初めにすることは人を減らすことです。

 なぜならば、多くの場合において、プロジェクトマネジャーの「プログラマーが足りないからプロジェクトが遅延している」という言葉を信じて人員が追加され、より炎上してしまっているからです。

 逆に、人数を減らすことで、無駄が省かれてプロジェクトが効率化することがほとんどです。

 今回は、どうやってスモールチームを実現するかについて解説します。

人が一人増えるたびに生産性は低下する

 皆さんの組織に新人が入社したときのことを思い出してください。

 その新人が入社したことによって、理論上は一人当たりの仕事量は減るのではないでしょうか。

 では、残りのメンバーの残業時間は新人の追加によって大幅に削減されたでしょうか?

 もちろん、スーパーマンのような新人が入ったことによって全員の残業時間がゼロになる可能性はありますが、ほとんどの場合、人数が増えたにもかかわらず、全員の残業時間は変わっていないでしょう。

 また、不思議なことに今度その新人を異動させると、それまで回っていた仕事が全く回らなくなることに気づかされるはずです。これは、人間が新たに仕事を生み出しているからです。

 この現象をシリル・ノースコート・パーキンソン氏は『パーキンソンの法則(1996)』の中で、「仕事の事務量はそれに携わる人の数に比例して増える」と説明しています。

 皆さんも、以下のような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

 ●大型の冷蔵庫に買い替えたのに、すぐにいっぱいになってしまい、廃棄する食料が増えた
 ●2倍の容量のスマホに買い替えたのに、動画やアプリを増やしてしまい、容量がいっぱいになった
 ●昇進して給与が増えたはずなのに、預金残高があまり変わっていない

 要は、人間はリソースが増えると、増えた分だけ使用してしまうということです。チームメンバーを増やすときには、くれぐれも慎重になりましょう。

「2枚のピザルール」を適用する

 では、スモールチームとは何人のチームを指しているのでしょうか。

 私が常に意識しているのは、アマゾンのジェフ・ベゾス氏が提唱する「2枚のピザルール」です。

 これは、「ピザ2枚でまかなえる規模のチームしかつくらないようにしている」というアマゾンのルールです。ピザ2枚でまかなえる人数なので、おそらく5人程度ではないでしょうか。

 また、下図のように組織を拡大する際の仕組みづくりにも「2枚のピザルール」は応用できます。各チームのリーダーが集まったリーダー会議を実施する際の人数も5人までと考えれば、5×5=25人まではリーダーとメンバーの二階層で管理できます。

 全員の顔がぱっと見える5人までのチームであれば、特別な情報共有の仕組みなど必要ありません。25人のチームであっても、最低限の情報共有の仕組みや勤務ルールさえ定めれば、スムーズに機能するでしょう。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。