変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。
今後増える、共創型プロジェクトとは
皆さんは、過去にどのようなプロジェクトに従事したことがありますか。
基幹システムの導入、新商品の開発、海外拠点の立ち上げなど、内容は多岐にわたると思います。そして、過去と比較するとプロジェクトに従事している人の比率は、高まっているのではないでしょうか。
本連載でさらに強調したいのは、過去と比較してプロジェクトの形態が大きく変わっている点です。下図で示しているように、これまでのプロジェクトは発注元と受注先という支配型の関係だったのに対して、これからのプロジェクトは共創型の対等な関係になるということです。
例えば、プロジェクトで実施するアイデアを募るために、プロジェクトの初期に行うアイデアソンという手法があります。
これまでの常識では、アイデアを出すのはプロジェクトのオーナー側で、必要があれば外部の有識者や消費者にヒアリングをする形態が一般的でした。
それに対してアイデアソンでは、スタートアップや大学、消費者、場合によっては競合までもが一堂に会してアイデアを出し合います。
また、アイデアを出し合うだけではなく、一緒に試作品をつくって実現に向けたプロジェクトを一緒に立ち上げます。
共創とは、全メンバーが対等な関係で価値提供すること
アイデアソンをはじめ、このような共創は至るところで増えています。共創の特徴は、役務提供した対価としてお金を受け取るのではなく、参加者が価値提供することで結果としてプロジェクトが成功し、後から利益を享受することです。
例えば、私が過去に関与した自動車の安全性を高めるためのプロジェクトにはスタートアップや大企業、大学教授などが従事していました。参加者がそれぞれノウハウや人材などの資源を提供し、全員で価値提供してプロジェクトを成功に導きました。
当初は3名ほどのメンバーで始まったプロジェクトでしたが、関係者にヒアリングを重ねていく過程でミッションに共鳴する人たちが集まり、最終的には5社から20名程度の関係者が集うチームができあがりました。
共創型のプロジェクトは特に新しいものではなく、このような形態のプロジェクトは昔から存在していました。
例えば、Blaboという会社では、世界中の人たちがアイデアを出し合って商品をつくることができるコミュニティを運営しています。これまでBlaboからは、47都道府県の地元の味のアイデアを集めて47種類のポテトチップスが発売されたり、夫1人で片付けまでできる料理キットが考案されたりしています。
コラボレーションに参加した人たちが得られるものは、金銭的な対価かもしれませんし、Blaboの事例のように貢献したいという承認欲求の充足かもしれません。
業界や会社の枠を超えたヨコの関係をつくる
過去の連載でも説明したとおり、今は業界ごとの垣根がなくなってきています。
これまでは業界内で競争をしていたため、いかに業界内でのタテの関係を築くかが重要でした。自動車業界であれば系列を構築して、自社の仕様を理解してくれるサプライヤーとだけ取引をすることで競合に対して差別化できました。IT業界や建築業界でも同じように下請企業とのタテの関係性を構築することが重要でした。
これに対して、今はデジタル化とグローバル化の影響により、多くの産業でヨコ割りのレイヤー化が進んでいます。レイヤー化とは、下図のように業界を超えて分業が進むことを意味します。
業界や会社に閉じた中でのタテの関係ばかり築くのではなく、意識して業界や会社を超えたヨコの関係を築くことで、答えのない時代に成果を出せる共創型のチームを実現しましょう。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。