【外科医が教える】老化にメリットはあるのか？…衝撃の回答

できるだけ病気にかからず、元気に毎日を過ごしたいもの。それだけに「病気であることが生存に有利になる場合もある」と聞けば、驚く人も多いことだろう。一体、どんなケースなのか。そして、もし病気がマイナスばかりではないとしたならば、私たち誰もが直面する「老化」にも、何か身体における知られざるメリットがあったりするのだろうか。『すばらしい人体』の著者で、ブログ累計1000万PV超、Twitter（外科医けいゆう@keiyou30）アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に聞いてきた。（取材・構成：真山知幸）

生存に不利なはずの遺伝子変異が…

――『すばらしい人体』では「病気を持っていることが、生存に有利になる場合もある」と書かれています。一体、どんな場合なのでしょうか。

山本健人（以下、山本）：「鎌状赤血球症」という遺伝病がいい例です。円盤状の赤血球が三日月のような形に変化してしまう病気です。赤血球が壊れやすくなるため、重篤な貧血を起こしたり、毛細血管に詰まって梗塞を起こしたりするリスクが高まります。

　そのほかの臓器にも様々な問題を引き起こすことがわかっています。

――それだけ聞くと、よいことは全くないように思えますが……。

山本：ところが不思議なことに、アフリカではこの遺伝子変異を持つ人が非常に多いと言われています。地域によっては、約30％もの人が鎌状赤血球症の原因となる遺伝子変異を保有しているのです。

　なぜ、生存に不利なはずの遺伝子変異が、これほど高い確率で保有されているのか。不思議だと思いませんか。

マラリアを防ぐ

――言われてみれば確かに……。何か理由があるのでしょうか。

山本：マラリアの流行が原因と考えられています。マラリアはマラリア原虫によって引き起こされる病気です。マラリア原虫は、赤血球に寄生することで成長して増えることができます。

　ところが、鎌状赤血球の場合は壊れやすいため、マラリア原虫が増殖できないんです。

――遺伝子変異を持っているほうが、マラリアにかかりにくくなるわけですか！

山本：そういうことになります。マラリアは時に重篤な状態に発展し、命を奪うこともある病気です。

　そのため、マラリアが流行している地域では、「健常であること」よりも変異した遺伝子を持っているほうが生存に有利になることもあるんですね。

老化にメリットはあるのか？

――例外的にせよ、病になるメリットがあるというのは、実に興味深いです。であるならば、私たちが避けたくても避けられない「老い」にも、何か身体上のメリットがあったりして……。

山本：残念ながら、身体的な観点で言えば老化自体にメリットはないように思います。もちろん、年を重ねることで経験値が増えたり、心が豊かになったりすることはあります。

　ただ、身体の機能は時間とともに劣化していくものです。

　冷蔵庫や車などを長く使っても、買ったとき以上に性能が増すことはないのと同じで、人の身体も有機物である限りは、例外ではいられません。

――やはり、そうですか……。

70点、80点を目指す

山本：高齢の患者さんのなかには「もっともっと元気にならないと！」と思いすぎるあまりに、老化によってその期待が裏切られると、落ち込んでしまう人がいます。そんなとき、私は「80年使ってきたお体ですから」といったお声がけをよくします。

　常に100点満点を目指すと精神的につらくなるばかりですし、どちらかといえば、年齢に見合った形で70点や80点の維持を目指すほうがいいと考えています。

――「元気でなければダメ！」と思いすぎることで、かえって元気がなくなってしまっては本末転倒ですものね。

老化を一つのきっかけに

山本：老いを迎えるにあたって、目標にしたいのは「楽しく生きること」です。

　そのためには、避けられない身体の不具合を上手に受け入れ、長く付きあっていくことが重要ではないかと思います。

――身体が衰えることで、まだ衰えていない機能のありがたみがわかったりもしますか。

山本：それもありますよね。『すばらしい人体』では、身体が持つ優れた機能を数多く紹介していますが、日常の何気ない動作の裏には、高度な身体の働きがあります。自分の身体の機能を改めて見つめ直す。

　病気や老化を、そんなよいきっかけだととらえられれば、身体の不調や老化にがっかりしすぎることなく、毎日を楽しく過ごせるのではないでしょうか。