歯周病予防のために
1日4回歯磨きを推奨

 歯の状態は健康寿命に密接に関わっている。さらに歯周病は、認知症だけではなく、さまざまな全身疾患リスクにも大きく関わっているという。

「誤嚥(ごえん)性肺炎、糖尿病、動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞などの全身疾患リスクにも、歯周病菌は関係しています。これらのリスクを下げて健康寿命を延ばすためには、歯のケアによって脳を刺激し、原因物質である歯周病菌を予防、改善することが必要です」

 実際、長谷川医師のクリニックでは歯のケアを一度行っただけで、認知症患者の症状が改善した例もあるという。

「たとえば、84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」

 大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないかと長谷川医師は言う。ただし、自分は1日3回歯磨きをしているから大丈夫だな、と安心するのはまだ早い。

「実は加齢によって口内環境は変わり、歯周病菌が増えやすくなることが判明しています。歯周病の発症率は35歳前後から一気に上がり、40代になるころには約8割もの人が歯周病になる。これが今まで通りのケアではダメ、と私がお話しする理由。歯周病は、ごく軽い炎症から始まるので痛みも自覚もないまま進行し、気づいたころには歯茎も歯根もぼろぼろになります。35歳からは、根本的に歯のケアを変える必要があるのです」

 そこで、長谷川医師が推奨するのが、『1日4回歯磨き』だ。

「まずは起床時、最も口内が汚い朝の歯磨きですね。就寝中は唾液が減少し、細菌が繁殖しやすいので、起きたときって便10gと同じだけの細菌が口の中にある状態なんですよ。そう思うと、朝起きてすぐ恋人とキス…なんて汚くて考えられないですよね(笑)。起床時すぐに1回磨いて、あとは毎食後に1回。磨く時間は10分以上が理想的ですが、最低でも5分かけて磨く。忙しくてムリという方は、就寝前だけは15分間しっかり磨くことを意識しましょう。また、日本では歯医者は不具合が出てから行くところ、という意識が根づいていますが、特に問題を感じていなくても3カ月に1回は検診に行き、歯垢や歯石をクリーニングで取ることも大切です」

 アンチエイジングのために食生活や運動習慣を見直すことは当たり前になって来たが、それと並行して歯のケアも真剣に考えないといけないようだ。