銃で武装した男が
FBI事務所を襲撃

 家宅捜索の2日後、オハイオ州シンシナティにあるFBI事務所に防弾チョッキを着て殺傷力の高いAR-15型ライフル銃を持った男が侵入を図ったが失敗し、現場から逃走した。白い車に乗って幹線道路を100キロ近くも走り、警察が追跡して車を止めようとしたが、中から発砲してきた。そこで銃撃戦となり、負傷した男はトウモロコシ畑に追い込まれ、警察に射殺された。

 容疑者の男の年齢は42歳で、米国海軍とフロリダ州軍の経験を持ち、極右の過激派組織「プラウド・ボーイズ」との関連が示唆されているという。プラウド・ボーイズといえば、2021年1月6日、トランプ前大統領が2020年大統領選の結果を覆すために、暴徒たちを扇動して起こしたとされる連邦議会議事堂襲撃事件に関わっていた団体としても知られている。

 この容疑者に関してはFBIも以前から要注意人物としてマークし、情報を集めていたが、その時点では脅威とみなされていなかったため、職務質問が計画されたことはあったが実施できないでいたという。

 それから容疑者はトランプ氏が立ち上げたソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」にアカウントを持ち、活発に活動していたことがわかっている。ついでに言えば、トゥルース・ソーシャルでは「FBIの腐敗」「FBIの予算打ち切り」といったハッシュタグの話題がトレンド入りしているというが、それだけ激しいFBI批判が人々の共感を呼んでいるということだろう。

 この事件を受けて、元国土安全保障省高官のエリザベス・ニューマン氏はABCの政治討論番組「ジス・ウィーク」に出演し、こう述べた。

「人を暴力的行動に駆り立てる精神的、もしくは社会的な要素はたくさんあります。しかし、この事件の引き金を引いたのはトランプ氏宅への家宅捜索が行われたことではなく、トランプ氏や共和党議員がFBIに対する攻撃を鮮明にしたからです」(2022年8月14日)

 つまり、政治家の法執行機関に対する暴力的な発言が人々に「FBIを攻撃してもよいという許可」を与える役割を果たしたのではないかということだ。

 その上でニューマン氏はこう続けた。

「世論調査を見ると、米国人の実に3分の1、驚くべき数の人たちが政治的な目的をかなえるために暴力が必要だと考えていることがわかります。政治的暴力が急増しているのです。そうした中で、この6年間の自分たちの発言がいかに暴力をあおってきたのかについて、何も学んでこなかったのです。今こそもっと冷静になるべきです。臆測で物を言うべきではありません」

 ニューマン氏の忠告は政治的暴力をあおっているトランプ氏と共和党議員に向けられたものと思われるが、この6年間というのはトランプ氏が大統領選に立候補して当選してからということになる。