コロナ「全数把握見直し」で足並み乱れる理由、救急医が“真の課題”を緊急提言Photo:JIJI

岸田文雄首相が、新型コロナウイルス感染者の「全数把握」を見直す方針を示した。この変更は本来、全国知事会が強く要望していたはずだった。だが方針発表後、東京都や大阪府が反発するなど、早くも自治体の間で足並みが乱れている。この混乱の背景には、全数把握の見直しによって生じる「弊害」がある。また筆者は、日本政府が本当に解決すべき課題は別にあると考える。そういえる要因を詳しく解説する。(名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長、集中治療専門医、救急科専門医 山本尚範)

「全数把握」見直しは必要か?
自治体で見解分かれる事態に

 岸田文雄首相は8月24日、新型コロナウイルス感染症のいわゆる「全数把握」を見直す方針を示した。

 都道府県が望めば、重症化リスクの低い感染者は年代と人数を届けるだけで済む。ハイリスクの感染者(高齢者や基礎疾患のある人)のみ、感染者情報の管理システム「HER-SYS(ハーシス)」を通じた「発生届」を出す必要がある。

 発生届を記入する負担を軽くすることで、保健所はハイリスク者の健康観察に集中でき、医療機関はより多くの患者を診療可能になる効果を見込んでいる。

 この全数把握の緩和はそもそも、全国知事会が強く要望していたはずだった。しかし現在、東京都や大阪府などはこの方針に反し、これまで通り全ての感染者の発生届を出す考えを明らかにしている。

 その主な理由は、感染者に対して「食事宅配サービスの提供」「パルスオキシメーターの配布」「重症化リスクが低い場合の健康観察」「データ収集」ができなくなることだ。

 いわば、早くも自治体の足並みが乱れているわけだ。にもかかわらず、岸田首相は27日に、全数把握の見直しを「全国一律での導入を基本にする」と発表し、混乱を招いている。

 なぜ、このような混乱が起きるのか。