恋人にもそこまでしない!?
全身全霊で学生を口説く

 その苦労もあって、やがて新卒採用を決意する時期に来た。創業から9年目のことだ。新卒の場合は、アルバイト経験は別にして、企業人としての経験はない。基本的にはゼロからのスタートになるので、時間はかかるが会社の考え方をしっかり浸透させていくことができる。会社の考え方をしっかり理解してもらい、共鳴を得ることができれば、ひとつの方向に向かってみんながまとまっていけると感じた。結果的には、新卒採用が会社を大きく変えていくきっかけになる。

 だが、新卒の採用は中途採用以上に難しかった。オフィスの外観のハードルは、中途採用以上に高くなる。こんな雑居ビルのようなところで働き始めて本当に大丈夫なのか、と心配になるのは当然だったと思う。

 だからこそ、面接まで来てくれた学生には、それまで以上に全身全霊で対応した。それこそ、口説いた、と言っても言い過ぎではないだろう。とにかく入ってもらわないといけない、と必死だった。

 もしかしたら、自分の恋人にさえ、ここまで熱心に向き合わなかったかもしれない。しかし、そのくらいしなければ、零細企業などにはいい人は誰も来てくれないのである。