◇エンタメ飽和時代に生き残るには

 パンデミック前から、旧態依然たるクラシック音楽業界に著者は不満を抱いてきた。ビジネスチャンスが転がっていても、現状に甘んじて新規顧客の開拓を怠っていると感じるからだ。

 都市部から遠い地方や山間部で暮らす人たちは、NHK交響楽団のようなプロのオーケストラの生演奏を鑑賞する機会が少ない。そういう人たちのために、有料のオンライン配信で音楽を届けることはコロナ前でもできたはずだ。「生演奏を聴くことが基本だ」という意見も一理あるが、Netflixやアマゾンプライムビデオなどでコンテンツが飽和状態の今、若い人はどんどんコンサートホールから離れていってしまう。

 1000円や1500円を払い、オンラインで素晴らしい演奏を楽しむ。するとその人は「配信でもこれだけ感動するのだから、生演奏はもっと満足度が高いだろう。次はコンサートホールに出かけてみよう」と思うはずだ。

◇クラシック音楽業界をDXする

 このSDGsの時代に、クラシック音楽の世界は宣伝を「チラシ」に頼りすぎている。しかしDXが叫ばれる今、クラシック音楽業界もDX革命を起こすべきだろう。

 著者は、クラシック音楽に特化したスマートフォンアプリの開発を計画している。今週どこの都市でどんなコンサートが催されるのかが一覧表示される仕組みだ。「今からでも買えるチケットはあるかな」というとき、アプリで検索して予約し、QRコードをかざせばチケットレスで会場に入れる。また、AIによるリコメンド機能によって、個々人に合ったおすすめの演奏会を薦めてくれる機能もつけたい。

 クラシック音楽に縁がない人には、コンサートホールに足を運ぶこと自体そもそもハードルが高い。「会場には普段着のままリラックスして来てくださいね」などとコンサート鑑賞のコツを噛み砕いて解説すれば、敷居も下がるだろう。

 今後も長く音楽を聴いてくれる中高生や大学生などの若い世代には、チケット代を大幅に割引する「学割シート」を提供したい。スタンプラリーのようなインセンティブを導入するのもいいだろう。

「反田恭平はクラシック業界の風雲児だ」と言われるが、他の業界の人たちが当たり前にやっていることをやろうとしているだけだ。今、ショパンコンクールや「情熱大陸」のおかげでクラシック音楽が注目され、マス(大衆)に届こうとしている。著者はその可能性にかけ、日本史上最大のクラシック音楽ブームを巻き起こしたいと意気込んでいる。