養老孟司,茂木健一郎,東 浩紀

明治以来人口が拡大してきた日本は、いま人口減少局面に入っている。子どもは減り、老人は増え、GDPの世界ランクがずるずると低下するなかで、しかし天災だけは定期的にやってくる。次の大地震が人口密集地を直撃したとき、日本はどう生き残ればいいのか。現代日本が誇る三賢である養老孟司、茂木健一郎、東浩紀が、議論を交わした。※本稿は、養老孟司、茂木健一郎、東 浩紀『日本の歪み』(講談社現代新書)の一部を抜粋・編集したものです。

次の大震災が人口密集地で
起きたら日本はどうなる?

養老 NHKで「西の半割れ」をテーマにした、南海トラフ巨大地震が来たら何が起こるのかを描いたドラマ仕立ての番組をやっていました。和歌山県沖で地震があった場合、関西一円、瀬戸内一円で震度7だそうです。当然それだけでは済まなくて、それに伴ってあちこちの活断層が連動する可能性もあるし、東側にもいずれ来ます。東南海地震もずっと来ると言われているし、南海トラフと連動して起こるかもしれない。首都直下型地震や富士山噴火が連動する可能性もある。

茂木 前回の東南海地震は1944年ですが、覚えていらっしゃいますか。

養老 覚えていないです。戦争中でしたから、報道管制で、そういう景気の悪い話はしなかった。

東 M7.9で、相当大きな地震だったようですね。

養老 そうらしいですね。

茂木 養老先生がお生まれになったのは関東大震災の14年後ですが、名残はありましたか?

養老 全くないです。でも母の話は聞いたことがあります。大震災の日は横浜の本牧に泊まっていて、歩けなくて庭に出られなかったそうです。ただ、その旅館がなぜか虎を飼っていて、なんとか庭に出たら虎がうおーと吠えていたと言っていました。

茂木 関東大震災もM7.9と言われていますね。1923年だから、今年でちょうど100年か。

養老 日本の場合は天変地異がしょっちゅう起こるので、起こった後にどう復興するかに賭けたい。NHKの番組によれば、大阪では津波が川をさかのぼって梅田まで入ってくるそうです。そうなったら大阪は壊滅します。もちろん東京にも同じことが起こる可能性が十分ある。大事なのは、その後どういう社会をつくるかということです。報道では災害による損害ばっかり言うけど、災害の後すぐに起こるのは復旧です。

 具体的な課題で考えると、例えば東海地震が来たら新幹線はダメになります。浜松あたりが津波をかぶるだろうし、新丹那トンネルも断層でズレるかもしれない。そのときに、復旧するかどうか。あんなもんやめたとするのか、どうしても元に戻すのか。