原田泰 データアナリシスPhoto:PIXTA

日本は財政赤字で大変なことになると言われているが、実は日本の財政赤字は縮小している。このことは何度も書いたのだが、残念ながらこの事実を認めて下さる方は少ない(例えば、「日本の財政は本当に危機的なのか?『ワニの口』財政理論のカラクリとは」)。加えて、将来は大変なことになるという方も多い。そこで将来の財政状況がどうなるかを予測してみたい。財政状況の指標としては政府債務対GDP比を用いる。なお、ここでの債務は、通常使われる粗債務ではなく、粗債務から政府の保有する金融資産を差し引いた純債務を用いている。後述するように、金利の動きが重要なので、政府が支払う金利と受け取る金利を相殺することが必要だからだ。なお、2023年の政府粗債務残高の対GDP比は260.1%、政府純債務残高の対GDP比は161.5%である。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

政府債務の対GDP比の変化は
どう説明できるか

 予測の上で重要なのは、「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)」という概念である。政府支出のうち金利払いと元本返済のための支出を除いたものをE、政府収入をR、とするとE-Rが基礎的財政収支である。さらに金利をr、名目GDPをY、t+1期の政府債務をDt+1、前期の政府債務Dtとすると

 Dt+1=E-R+rDt+Dt

 となる。この式の意味は、当たり前だが、今期の政府債務Dは、基礎的財政収支E-Rと政府債務の利払い(金利×前期の政府債務)と前期の政府債務とを足したものということである。

 また、政府債務の増加をΔDと書くと

 ΔD=Dt+1-Dt=(E-R)+rDt

 となる。

 政府債務の対GDP比D/Yの変化率をΔ(D/Y)、名目GDPの成長率をgと書くと

 Δ(D/Y)=(E-R)/Y+(r-g)D/Y

 となる。

 D/Yが減少するためには、Δ(D/Y)<0でなければならないから

 (E-R)/Y+(r-g)D/Y <0

 であればよい。

 すなわち、基礎的財政収支E-R/名目GDP Yと(金利r-名目成長率g)×(政府債務残高D/名目GDP Y)の和がマイナスであれば政府債務の対GDP比率は低下する。