「信用できる」と思われやすい人の共通点

──逆に、「頑張っているつもりだが、他の人と比べて上司に信用してもらえていない気がする」「やりたい仕事を任せてもらえない」という場合は、どうしたらいいでしょう。仕事で信頼される人の共通点とは、何でしょうか。

植原:自分自身の「予測可能性」について、客観的に分析してみるといいかもしれません。根本的には、「信用」とは「予測可能性」だと考えられるんです。

──予測可能性?

植原:つまり、その人が次にどう振る舞うかが予測できること。これが、安心につながるんです。

よく、「人は自分と似た人を好む」と言われるでしょう? あれも、予測可能性が高いからなんですよ。趣味が同じ人・出身が同じ人の方が、「この人が次に何をするか」の予測が立てやすいじゃないですか。

──たしかに。

植原:あとは、一般的に「単純接触効果」と言われるような、「何回も会うとその人への信頼感が増す」という論もありますが、これも、なぜ信頼が醸成されるかというと、経験を積み重ねることで予測可能性が高まっていくから。

──複数回会うことで、傾向を予測しやすい、と。

植原:ええ。仕事においても同じです。「平均的な成績をとっている人」と「調子がいいと高い成績を出すが、波がある人」。この2人がいたとき、信頼されやすいのは前者でしょう。

平均的な成績をずっととっている人は、「次もだいたいこれくらいの仕事はやってくれるだろう」と、予測可能性が上がりやすいんですね。でも、波がある人は、次がどうなるかちょっと読めない。自分が仕事を頼むタイミングが、高い波がくる時期と重なるとは限らないんです。

なので、「この人は波がある人なんだな」と周囲に認識してもらえればいいんですが、ある程度のパターンを掴んでもらうまでは、信頼感も低くはなりがちですね。

真面目に仕事をやらなくても信頼される人

──なぜ人間には、「予測可能性」を重視する傾向が備わっているのでしょうか。

植原:進化の過程で考えるとわかりやすいかもしれません。

人間の祖先は長い間、規模の小さな集団で生活していました。そこで、たとえば、普段50人の身内と暮らしているのに、知らない部族から知らない人が来たら、咄嗟に「危険なやつかもしれない」と身構えますよね。

「この人は、どんな人なんだろう。信用してもいいものだろうか」と警戒しているときに、自分たちと同じ言葉を話すとか、似たような服装をしているとか、食習慣が同じだとか、そういった共通項があると、予測可能性が高まるわけです。その一方で、エキセントリックな見た目をしていると、予測が難しくなる。

こうした進化の過程で会得した心の在り方が、今も私たちの中に受け継がれているわけです。ただ、それが他民族・マイノリティへの偏見の芽になることもあるので、取り扱いは難しいんですけどね……。

──たとえば、方針をコロコロ変えたり、真面目に仕事をやらないのに信頼されている人がたまにいますが、それは……。

植原:「そういう人」としてのパターンがコミュニティの中で認識されており、予測可能性の高い状態になっているからだと思います。「どんな人かわからない」ときは不安ですが、多少変な人でも、個性的でも、「全体として、あの人はそういう傾向がある人だから」という予測可能性のもとに置かれれば、信頼してもらえるかもしれない。

──人間の精神の仕組みって面白いですね。こうして分析すると、いろいろな悩みも面白く思えてくる気がします。

植原:ええ、「論理的思考」なんていうと難解な印象を抱く人もいるかもしれませんが、いったん考え方のパターンを知ってしまえば、そんなに難しくはないんです。

自分で頭を働かせる体験を実地でできるような構造にしていますので、ぜひ、じっくり、焦らずに、考えながら『遅考術』を読んでみていただきたいと思っています。

【大好評連載】
第1回 「頭の回転は速くても考えが浅い人」と「本当に頭がいい人」の根本的な違い
第2回 「理屈っぽくて高圧的な人」の矛盾を見抜く「最強の質問」とは?
第3回 「優秀なのに自分を過小評価しすぎる人」が今すぐやめるべき思考のクセ

植原 亮(うえはら・りょう)

1978年埼玉県に生まれる。2008年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術、2011年)。現在、関西大学総合情報学部教授。専門は科学哲学だが、理論的な考察だけでなく、それを応用した教育実践や著述活動にも積極的に取り組んでいる。
主な著書に『思考力改善ドリル』(勁草書房、2020年)、『自然主義入門』(勁草書房、2017年)、『実在論と知識の自然化』(勁草書房、2013年)、『生命倫理と医療倫理 第3版』(共著、金芳堂、2014年)、『道徳の神経哲学』(共著、新曜社、2012年)、『脳神経科学リテラシー』(共著、勁草書房、2010年)、『脳神経倫理学の展望』(共著、勁草書房、2008年)など。訳書にT・クレイン『心の哲学』(勁草書房、2010年)、P・S・チャーチランド『脳がつくる倫理』(共訳、化学同人、2013年)などがある。

「真面目なのに信頼されない人」と「サボっていても信頼される人」の決定的な差