「興味を持って学んだ結果が仕事につながる」価値
永田 さらに、昨年(2021年)10月には「学人(まなびと)サークル」が誕生しましたね。学生の同好会や研究会のようなイメージでしょうか。どのようなきっかけで始めたのですか?
丸紀 社員の皆さんには自律的に学んでほしいと常々思っているのですが、なかなか難しいですよね。でも、興味や関心が高いものについては、仕事に直結していなくても知りたくなるし、同じ興味を持つ人たちと一緒に学べたら、すごく楽しいですよね。そのような学びの形を社内で作れないかなと思ったことがきっかけです。
永田 テーマは「気候変動と気象」「eスポーツ」「メタバース」「スマート農林水産業」など、かなり多岐にわたっていますね。
丸剛 はい。10のサークルが活動しています。自分たちだけで専門知識を学ぶのは難しいので、まずは社外の方や社内で専門知識を持っている方にお願いして講義をしてもらいます。その後、皆さんで集まって、深掘りしたいポイントを考えてカリキュラムをつくったり、講師を探したりしていただきます。どのサークルも50名程度の応募がありますが、メンバー同士が対話しやすくするために10〜20名に絞り込み、活動しています。今までにない新しい学びの形をリリースしたので、集まらなかったらやめればいいと思っていました。ところが、想像以上の反響があり、集まった方々の学びも深まっています。論文を書いてみようという方、社内向けの勉強会を開いてみようという方、地方自治体や国にアプローチをかけてみようという方も出てきました。また、学びが深まっただけではなく、社外の研究のお手伝いや意見具申等を行うことで、社外とwin-winな関係を作れたケースもあります。この「学人(まなびと)サークル」は、うまくいっている施策のひとつですね。
永田 10のテーマは一見したところ、どれも損害保険には直接関係ないように見えますが、ゆくゆくは業務につながってほしいという思いから設定されたのでしょうか?
丸紀 実は、損害保険業界には、関わりのないことの方が少ないのです。つまり、何かを学べば、必ず、いつかは何かの仕事につながります。最初から、「つながっているから学ばねば」と思うのか、「興味を持って学んだ結果が仕事につながる」のかは全然違いますよね。お客さまに何かを提案するときに役立つことがあるかもしれませんし、学んだ知識を使える部署に異動して頑張ってみたいと思うようになるかもしれません。こうした動きのなかから、イノベーションが生まれることもあるのではないかと期待しています。
永田 テーマのひとつ「スマート農林水産業」は、社員の方から挙がってきたテーマだそうで……会社側が投げかけたものを学ぶだけではなく、学びたいテーマが自主的に出てくるというのはいいですね。
丸剛 「スマート農林水産業」というテーマを挙げてくれたのは20代の社員です。第一次産業の後継者不足に課題感を持っていて、その対応策を考えたいということでした。一人で悶々としていたのですが、「学人(まなびと)サークル」ならみんなで一緒に考えていけると思ったそうです。
永田 サークル内では、メンバー同士がニックネームで呼び合っているというのも面白いです。
丸紀 そうなんです。このサークルには新入社員からシニア社員までさまざまな年代の人が集まっていて、年齢、性別、役職などは一切関係ありません。こうした気楽さを伝えたくて、ニックネームで呼び合うことを提案しました。私たち40〜50代も、若い方と対等に話せるのはうれしいですね。「知らない、分からない」ということも気楽に言えますし、知識を持っている若い人を見るともっとがんばろうという気持ちになります。メンバーみんなが同じ志を持って自主的に集まっているので、“やらされ感”がないし、無断欠席や脱落もほとんどありません。やはり「自分で手を挙げた」というところが成功の秘訣かと思います。
聞き手●永田正樹 Masaki Nagata
ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問・ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教・立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師
博士(経営学)、中小企業診断士、ワークショップデザイナーマスタークラス。「アカデミックな知見と現場を繋ぎ、人と組織の活性化を支援する」をコンセプトとし、研究者の知見をベースに、採用・育成・定着のスパイラルをうまく機能させるためのツールやプログラムの開発に携わる。また、企業のOJTプログラムや経験学習の浸透のためのコンサルテーションも行っている。
>>「三井住友海上インタビュー(2)人事部の私たちも、失敗を恐れずにチャレンジすることが大切」に続く
*当インタビューは、新型コロナウィルス感染症に対する万全な予防対策のうえに行われました。被写体は、撮影時のみマスクを外しています。