実際、私が精神分析の勉強でアメリカに留学していたときの話です。私は個人的に英語のレッスンを受けていました。私の借りていた家にアメリカ人の教師が来て教えてくれるのですが、初日、「部屋が暗いな」と思ったので、明るい蛍光灯に入れ替えてみました。

 すると、部屋に入ってきた教師が、「明るすぎる。ここは工場じゃない」と文句を言って、照明を消してしまったのです。私としては、ちょうどいい明るさにしたつもりだったのですが、教師にとっては逆に明るすぎて不快だったようです。

1日中家にいると
自然のリズムと合わなくなる

 アメリカやヨーロッパの家庭の多くは間接照明です。日本のように蛍光灯の光で直接室内を照らすようなことは、ほとんどありません。

 しかも、そのほとんどが暖色系の照明、つまり蛍光色ではなく電球色ですから、日本人の感覚からすると家庭内の部屋はどこも「暗いな」と感じてしまいます。

 ところが、それだけ明るい屋内照明に慣れきっている私たち日本人も、たとえば、夏の日に、急に外に出ればやはり「眩しいな」と感じるものです。

 日の光や青空の眩しさは、蛍光灯の比ではありません。

 しかも、自然光は、朝、明るくなって、夕方、暗くなります。

 1日中、明るい照明の中で過ごしていると、外の明るさの変化に気がつかなくなります。これが問題なのです。と言うのも、光に関して言えば、私たちは自然のリズムとはまったく切り離されていることになるからです。

 自然のリズムと合っていないわけですから、こういう生活を続けていると、必ず息苦しさを覚えるものです。そういうとき、実際に外に出てみるとどうなるでしょうか? 久しぶりに青空や日の光に包まれて、「気持ちいいな」と思ったことは誰にでもある体験だと思います。

 60代、70代の脳にとって、この「気持ちいいな」という感覚がいいのです。