光を浴びる生活は
睡眠も快適にする

 毎年、晩秋から冬にかけて、気のせいか、必ず気分が沈むという人がいます。

 じつは、これは「気のせい」でないことが多いようです。

「冬季うつ」という症状です。

 晩秋から冬にかけて、日照時間が短くなるために、気分がだんだんと沈んでくるのです。太陽の光の明るさは、それだけ私たちの心には欠かせないものなのです。実際、春になって日照時間が長くなれば、「冬季うつ」は自然と治ります。また、日照時間の短い緯度の高い地域ほど、「冬季うつ」が多いとも言われています。

 うつ病の治療に、光療法と呼ばれるものがあります。

 人工的な強い光を一定時間、浴びるだけの治療ですが、症状の改善には効果があります。光を浴びると、まずセロトニンの濃度が高まります。それによって落ち込んだ気分が軽くなってくるのです。

 それと、もう一つ、大事な理由があります。

 光は、睡眠に関係するホルモン、メラトニンの分泌にも影響を与えることです。

 青空や日の光は、メラトニンの分泌を減少させます。逆に暗くなってくるとメラトニンの分泌が増えてきます。メラトニンには脈拍や体温、血圧などを低下させる働きがありますから、分泌が減ると私たちは活動的になり、増えてくると眠くなります。

 つまり、光を浴びる生活が、メラトニンの分泌や量を調整して、体内リズムを正常に保ってくれるのです。

 また、家の中でも明るい屋内照明の下で過ごしていると、メラトニンの分泌が不自然になるので、自然な眠気は訪れません。人間に本来、備わっているはずの体内リズムが狂ってしまい、1日をただぼんやりと過ごすだけになります。

 しかも、メラトニンは、年齢とともにその量が減っていきます。

 若いうちはよく眠れた人でも、高齢になると、どうしても睡眠時間は短くなるものです。これもメラトニンの分泌量と関係があったのです。

 であれば、70代からは、いよいよ光を浴びる生活は大事になってきます。

 高揚感のためだけでなく、人間が本来備えている体内リズムを取り戻すためにも、外で過ごす時間が私たちには必要なのです。

執筆・監修/和田秀樹
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。