いまや、自分の会社が5年後、10年後もあるかどうか分からないほど、変化の激しい時代。このような状況でお金に困らず生きていくには、どうすればよいでしょうか? 奥野一成さんの新刊『投資家の思考法』は、その解決策を投資という観点で提示した1冊です。
そこで今回は、奥野さんと作家・元外務省主任分析官の佐藤優さんをお招きし、投資の社会的意義や日本企業が世界で勝つ方法について語っていただいた、本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の対談とQ&Aセッションの模様を全2回のダイジェストでお届けします。(構成/根本隼)

「お金が自然に寄ってくる人」に共通するたった1つの考え方左:奥野一成さん、右:佐藤優さん

「投機」と「投資」の決定的な違い

――佐藤さん、『投資家の思考法』を読んだご感想はいかがでしたか。

佐藤優(以下、佐藤) 強烈な知的刺激を受けました。タイトルは『投資家の思考法』ですが、ビジネスの価値を見極める際の「俯瞰的に見る/動態的に見る/斜めに見る」というアプローチや、企業分析を数字で考えるプロセスは、投資だけでなくマネジメントやクリエイティブな分野でも汎用性が高いです。まさに「成功者の思考法」ではないでしょうか。

奥野一成(以下、奥野) ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。

佐藤 本書が特に優れているのは、「投機」と「投資」の違いを明確に区別している点です。一般に、短期的な取引で自分の利益を増やすことが「投資」だと勘違いされがちですが、奥野さんによれば、それは「投機」というマネーゲームです。

 一方の「投資」は、「ビジネスが今後どれだけの利益を出すか」という長期的な視点で企業を選別したうえで、資本を投じてその企業の「オーナー」となること。将来の価格を予想して、「いくらで売れるか」という物差しで株や土地などを売買する「投機」とは全く別の経済活動です。

 多くの人はこの2つを混同しているので、その違いを明示した点で意義深い本ですね。

「問題解決への貢献」が投資の真の意義

奥野 企業とは、個人が各々の才能を持ち寄って、単独では扱いきれない問題を協力して解決するための器(うつわ)です。したがって、企業の存在意義は「顧客の問題解決」にあります。

 なので、良質なビジネスを展開する企業へ投資すれば、その企業の問題解決によって社会をよりよくすることに貢献できますし、自分はリターンを得られて幸せになります。これが、資本主義の本来のあり方ではないでしょうか。

佐藤 「自分だけ儲かりたい」という発想ならば、わざわざファンドを作る必要などなく、個人で「投資」もしくは「投機」をすればいい。でも、それでは多くの人が幸せになることはできません。

 そこで重要なのが「社会のため」という視点での投資です。個人で利益を独占するのではなく、優良な企業への投資を行なうことで、投資してもらった会社、そのビジネスの恩恵を受けた人、そして投資した人がハッピーになり、経済がスムーズに回っていきます。

情報の量と考える量は反比例する

佐藤 本書P.89の、企業分析では「情報の量と考える量は反比例する」という指摘も、非常に重要です。

 というのも、自分の頭で仮説を組み立てる際、誰かの意見や感想といった二次、三次情報は、思考の妨げになるだけで、助けにはならないからです。なので、一次情報だけを頼りに、じっくりと考える必要があります

 私が国際情勢を分析する場合の実例をご紹介しましょう。9月21日にプーチン大統領が国民向けに演説をした際、日本の報道では「部分的動員令を行なう」という箇所だけが注目されていました。

 ところが、私は報道のような二次、三次情報はシャットアウトして、プーチン大統領の演説テキストを参照して、全訳しました。すると、ロシアが「もはや真の敵はウクライナではなく、ウクライナを支援しているアメリカ中心の西側連合だ」、そして「西側連合は1991年にソ連を解体したのに続いて、ロシアの解体をも狙っている」という認識を示していることが見えてきたのです。

 つまり、プーチン大統領自身が、第三次世界大戦すら覚悟した「国家存亡の危機」を意識しているということです。この解釈は、二次、三次資料からでは絶対に引き出せません。このように、企業分析のエッセンスは、国際情勢を見るうえでも応用できるんです