上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。
TOPIXは長期的にも報われにくい
インデックス投資(パッシブ投信)が素晴らしいことには、私も同意です。その素晴らしさを説いたチャールズ・エリス『敗者のゲーム』や、バートン・マルキール『ウォール街のランダム・ウォーカー』は必読書と言ってもいいですね。
ただし、インデックス投資であれば何でもいいわけではありません。とりわけ、TOPIX(東証株価指数)に代表される日本のインデックスへの投資は長期的にも報われにくいでしょう。米国の代表的な株価指数であるS&P500に投資するほうが断然いいと思います。
何度も繰り返しになりますが、「ジブン・ポートフォリオ」に組み入れるときに大切な視点は、それが価値を増大するものなのかどうかで、これはインデックス投資でも同様です。大切なのは、インデックスを構成している企業の価値なのです。
この点、日本の株式市場は、価値を増大させない企業を温存させています。例えば、東芝は長年にわたって2000億円以上の利益を水増しするなどの粉飾決算を行っていたにもかかわらず、上場廃止になっていません。その他にも東証一部には、経営状態の怪しいゾンビ企業も数多くあります。
もちろん、東証一部上場企業のすべてがそうではありません。ただ、メジャーリーガー級の選手もいる一方で、力の衰えたベテラン選手や少年野球の選手、野球のルールすらまともに知らない素人までいるといった具合です。
そういった東証一部上場企業の全銘柄を対象としたものがTOPIXです。ゆえに総体として価値を増大することができず、平成の30年以上、ほぼ一定のレンジ内でもみ合いの状態となっています。
いっぽう、米国では、上場し、それを維持するのすら非常に大変です。例えば企業は格付けに従って借入の金利が決まるので、格付けが低い企業は高い金利を払わなければお金が借りられません。融資を受けてビジネスをやるにも、きちんと利益が出せなければ継続できないのです。そのような状況の中、米国の証券取引所には6000社以上が上場しています。その中からS&Pグローバルというインデックス企業が、定性基準などからS&Pコンポジット1500指数企業を選び、さらに時価総額基準で上位の500社を集めたものがS&P500です。見直しは随時行われ、基準に合わない企業を外す仕組みとなっています。このような新陳代謝がきちんと機能しているS&P500は、同じく平成の30年間で約9倍になっています。
と、このように説明すれば、「よし、S&P500に投資すればいいんだな」と思われるかもしれません。結論としてはそれも一つの選択肢として否定はしませんが、それでも自分が何に投資をしているのかは理解しておくべきです。
私の理解を説明しましょう。米国市場は世界でも稀に見るほど新陳代謝の激しい市場です。S&P500インデックスに投資するということは、その新陳代謝の「枠組み」に投資するということなのです。したがって、この「枠組み」は市場全体がバブルに沸く時には、大いにそのバンドワゴンの中で盛り上がりますが、バブルがはじけると大暴落を起こします。「枠組み」に投資するのであって、個別企業の利益を見極めて投資することではないことから、簡単にバブルに踊ってしまうという欠点を持っているのです。それを理解した上で、S&P500に投資をすべきです。
長くなってしまったのでまとめると、パッシブ投信であっても、「何に投資をしているのか」を自分で考え、理解した上で投資してください。そして、中身の「価値」を考えるようになって初めて、インベスター、労働者2.0に近づくことができるのです。
投資先が長期的に価値を増大するのかを自分で分析できるようになれば、インデックスではなく個別企業への投資に移行すればいいのです。いきなり個別企業に投資するのはハードルが高いという方は、価値を生む企業を厳選し、丁寧な説明を行うアクティブファンドに投資をすることも、学びを得つつ資産を増やすための選択肢になります。
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208
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